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コラム「研究員のココロ」

これからのPFIとVFM:“税果”を求めて

2007年02月05日 村上芽


1.はじめに

 民間の資金・経営能力・技術能力を活用して公共施設を建設・維持管理・運営しようとするPFI(Private Finance Initiative)が日本に導入されてから8年目となり、事業実施の意思表明でもある「実施方針」が策定された事業は260、民間事業者によるサービス提供が開始した事業は130に上る(2007年1月10日現在、内閣府PFI推進委員会調べ)。
 最近では、取り上げられる事業の多様化、高度化、大型化などが報道されている。このPFI事業を実施するかしないかを公共団体が判断するにあたり、必ず検討しないといけないことが、当該事業により「公共サービスが同一の水準にある場合において事業期間全体を通じた公的財政負担の縮減を期待することができること」または「公的財政負担が同一の水準にある場合においても公共サービスの水準の向上を期待することができること」等の確認である(括弧内は内閣府・PFIの基本方針より抜粋)。これが、「VFM(Value For Money)が出るか出ないか」を評価することにあたる。「VFMに関するガイドライン」では、「「VFM」とは、一般に、「支払いに対して最も価値の高いサービスを供給する」という考え方である」と述べられている。
 筆者は、PFIをはじめとする民間活用型の公共事業にかかわるコンサルティングに従事し、特にVFM評価や事業計画・資金計画に関するパートを担当してきた。本稿では、VFMを巡って最近感じることをまとめてみたい。

2.これまでのVFMの源泉

 ほぼすべての事業において、「公共サービスの水準は一定としてどの程度財政負担を減らすことができるか」という前提でVFMは算出される。すなわち、VFMが10%なら10%、15%なら15%の公共支出としての経費削減が達成できるということになる。この数字の源泉をまとめると、経験的にはおおよそ次のようなものである。

図

(注)VFMは現在価値により評価するため、平準化がプラス要因となりやすい。



 例えば、総合評価一般競争入札方式でPFI事業を実施すれば、建設コストが従来型の公共事業よりも(固めにみても)10~15%下がるだろうと推測し、そのプラス分がマイナス分と相殺された結果、VFMとしては10%内外に収まるなどと考えるわけである。
 つまり、これまでのVFMの源泉は、ほぼすべての場合、初期投資(建設コスト)の減少であり、多少の経費増加があってもそれを補ってなおプラスに働いていると言える。また、VFMは特定事業選定時に評価を行うためあくまでも理論値であるが、実際の入札価格で評価しなおす場合でも(事業者選定の客観的評価にあたる評価)、この傾向に変わりはない(ただし、多くのケースで競争原理が働いて削減幅は増加した)。

3.これからのVFM:PFIではなくても建設コストは下がる

 最近は公共事業にかかわる報道といえば談合事件という始末であるが、改正独禁法をはじめとする談合対策の強化の結果、予定価格の90%台だった落札価格のレベルがから70%台にまで落ちているという。つまり、「PFI法に基づく」という手続きを踏むことによって発生していた正面からの“勝負”が、通常の公共工事(PFIと比較する場合には「従来型」と呼ぶ)でも行われるようになったというわけである。
 つまり、「建設コストを安くする」という目的のためであれば、PFI法に基づいて事業を行うメリットは薄くなるということになる。

4.これからのVFMはどこに求めるべきか?

 それでは、今後、特定の事業をPFI方式で実施するかどうかを判断するにあたり、重要な部分はどこになるのだろうか?明確に言えそうなのが、当該事業において「運営」要素がどの程度あるか、また、単年度ではなく長期契約で運営や維持管理の民間委託を行うことによるメリットがどこにあるか、という点である。
これまでの特にハコモノPFIの多くには、当該施設の「運営」要素が少ないために、民間に何らかの長期委託をすることによる「公共サービス水準の向上」が見込めるかどうかを判断する必要さえなかった。また、単に建物を建てるだけであれば、自らそれを運営したらどうなるかという発想が薄くなるために、設計における創意工夫の“迫力”も小さくなってしまうことだろう。
 長期的な建物の維持管理の面からは、予防的な修理・修繕によって建物を長く、よい状態で保とうとする行動を起こせるかどうかがポイントとなるだろう。公共施設に特徴的なのは、「予防」という発想に乏しく、「壊れたら直す」(壊れるまでは何もしない)ということだと言われる。そのため、長期的な維持管理の委託のもとで、いかに(大規模なものを含めて)修理・修繕を行っていくのかという部分で、民間活用のメリットを出せる可能性がある。
いずれの場合でも、公共サイドに長期的に公共サービスの水準を監視(モニタリング)する能力が必要となり、そのスペシャリストの養成が求められることとなる。

5.VFMを訳してみると

 このように、VFMの源泉が変化しようとしているとき、改めて考えておきたいのが“Value for Money”の意味である。簡単な英語の頭文字を取ったVFMとして定着しているものの、日本語にするとしたら何がフィットするだろうか?
まず頭に浮かぶのが「安くてよいもの」というイメージである。低価格で高品質という、消費者視点の言葉。しかし、「同じ値段でも、よりよいもの」であれば、そのレベルに合理性があればVFMの定義には反しない。ValueもMoneyも簡単な英単語だが、簡単には訳しにくい言葉であることに気づかされる。
 「税果」という言葉はどうだろうか。「Money」は、「お金」であるが、公共サービスの提供をテーマとするここでは、税金をいかに効果的・効率的に使うかということがポイントである。そこで「お金」よりは狭い「税」をあててみたい。「Value」は、「価値」であるが、1円の税金がより多くの価値=成果や果実を生み出す、という意味を込めて、「果」という字を用いたい。つまり、1円の税金あたり、より多くのサービス(果実)を生み出すのか、という意味を、あらためてVFMという数字に込めるべきだと考える。単に「安い」から達成できるのではない、「これだけの税金でこれだけのサービス水準が達成できる」という「税果」、平たく言えば「お得感」が必要になってくる。
 この考えをあてはめると、PFI事業の事業者選定基準において、通常行われている「サービスの水準がいかに高いか」という定性評価面と、「入札価格」の定量評価面の単純合計値だけではなく、「サービス水準÷価格」という単位あたりサービス水準を比較していく必要が出て来ると考えられる。そのためには、評価の軸となる公共サイドの「こんなサービスがほしい」という要求水準の完成度の高さ(細かければよいということを意味しているのではない)が求められるだろうし、「サービス」の水準を考えるにあたっては住民の満足度などをどう評価していくかなど、評価軸の検討が必要となってくるであろう。いずれにしても、公共サービスの究極の提供者であり受益者である納税者の方を向いた公共事業-従来型であろうとPFIであろうと-が求められていることに変わりはない。

以上

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