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コラム「研究員のココロ」

効果的な改善活動を工場で行うためには?

2006年02月27日 中山 哲治


1.工場見学して思うこと

 昨年、ある映画で"工場見学"しました。映画では、歯磨き粉工場の生産性を向上するために、主人公の父親が担当するキャップ留め工程に生産ロボットを導入した結果、父親がリストラされてしまいます。しかし、導入後の工場では、コンベアラインの速度も他工程の作業も導入前と変わりません。この設備投資によって工場の生産性は向上したのかなぁ、と思いながら映画鑑賞を楽しみました。
 ところで、実際に製造業の会社の工場をコンサルティング活動等で見学すると、「在庫水準が非常に高い」「生産リードタイムが非常に長い」等の問題が散見されます。これらの問題の解決や生産性向上のために改善活動に取り組んだり、実際に生産ロボットを導入したりする工場が多いのですが、残念ながら効果が出ない、または部分的には効果は出たが依然として問題が解消されない等の状況がよく見受けられます。以前たまたま同席した製造業A社の改善発表会では、全発表後の「それで、会社は儲かっていますか?」という質問に会場が静まり返ったことがありました。


2.改善活動が効果的に行えていない?

 一般的に、工場の生産ラインを構成する各工程には変動性(処理時間のばらつきや設備故障、品質トラブル等)があり、工程間の能力差(処理時間差や稼動時間差等)があります。能力差があるので、能力が最も低い工程が工場全体の生産量を制約しており、他の工程の能力を向上させても工場全体の生産量は向上しません。しかし、従来の改善活動では、各工程での改善の積み上げ、すなわち部分改善の総和が工場全体の改善になると考え、全ての工程の能力を漏れなく向上させようとします。その結果、改善活動が会社全体の業績向上に結びつきにくく、十分な改善効果を出せずに終わってしまうことが多くあります。


3.まず、考え方と仕組みから変えてみる

 ゴールドラット博士の著作で2001年5月に邦訳されたベストセラー「ザ・ゴール」で紹介されているTOC(Theory Of Constraints:制約条件の理論)では、工場全体を俯瞰して収益改善を妨げている本質的な制約条件を特定し解消します。この理論では、工場全体の生産性を向上するため、まず、工場の生産量を制約する工程に着目して工場全体を管理する仕組みを構築します。その構築の手順は「ザ・ゴール」でも紹介されている以下の「5ステップ」です。

ステップ1
制約工程を特定する。

ステップ2
制約工程を徹底的に活用する。

ステップ3
制約工程以外を制約条件に従属させる。

ステップ4
制約工程の能力を向上させる。

ステップ5
もし、前のステップで制約工程が解消されているならば、ステップ1に戻る(このとき、前のステップまでで構築した仕組みや考え方に捕らわれないように気を付ける)。

 実際のプロジェクトでは、この「5ステップ」のうち、初めの3ステップを適用して仕組みを構築することにより、「在庫水準の適正化」「製造リードタイムの極小化」「生産能力の向上」等に関して大きな効果を得ることができます。弊社が実施したあるプロジェクトでは、先方のメンバーがこれまで生産能力が限界と思いこんでいた工程で50%の能力向上を実現して工場全体の「生産能力の向上」となりました。これは、設備投資を伴う「ステップ4 制約工程の能力を向上させる」を実施しなくても、メンバーが考え方を変えて制約工程の能力を徹底活用できる仕組みを構築したためです。具体的には、固定的な業務シフトや工程要員の管理範囲の変更、さらには前工程までの変動性の影響を受けても制約工程の前に仕掛りを供給できるよう生産計画を立てるといった仕組みの変更等が挙げられます。


4.考え方と仕組みを変えれば、改善活動がより効果的になる

 制約工程に着目して工場全体を管理することは、言い換えると、部分改善の総和は全体の改善に繋がらないと考えることです。このような考え方および仕組みに変えれば、改善活動のポイントを絞ることができ、効果が会社全体の業績向上に直結するようになります。例えば、制約工程の設備故障や品質トラブルの発生を低減したり、段取替え時間を短縮することにより、制約工程の生産能力を向上させることができれば、その改善効果が工場全体の生産量増加に直接繋がります。
 また、考え方と仕組みの変更や改善活動を実施して能力を向上させた上で、それでも能力が市場需要を満たさない場合に初めて設備投資を行えばよいので、無駄な投資をせずに済むようになります。設備投資して能力を向上すべき工程も明確化されますし、その投資により工場全体の能力がどれだけ向上するかも正しく把握でき、効果的な設備投資の判断ができるようにもなります。


5.おわりに

 制約工程に着目して工場全体を管理する仕組みを構築することで、現在の能力を最大限活用できるようになります。それだけでなく、現在取り組んでおられる改善活動を、より効果的に行えるようになります。改善活動を加速させるためにも、まずは考え方と仕組みを見直してはいかがでしょうか?


【参考文献】
  1. E.ゴールドラット、三本木亮訳、「ザ・ゴール」、ダイヤモンド社、2001
  2. E.ゴールドラット、「日本企業にはすでにTOC導入のインフラがある」(週刊ダイヤモンド2001年9月15日号)、ダイヤモンド社、2001
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