コラム「研究員のココロ」
現場第一線からの情報を有効に活用するために
~ディスカッションの「手順化」の試み~
2007年02月05日 高村将文
営業マンをはじめとする現場社員は直接顧客と接しているため、他部門の社員と比べ“ビジネスチャンスとなる情報”と触れ合う機会が多い。そのため、現場社員が得た情報を各種企画に反映させることを試みる企業もあるが、実際に有益なチャンス情報を吸い上げ活用することは容易ではない。これに関し、以前の『研究員のココロ』で、知人が経営する医療機器メーカーA社の事例を紹介した。
A社では、営業活動を商品開発に活かすために、営業マンに新商品に関するアイディアの提供を義務付けていた。それは、『商品アイディアシート』という指定された用紙に、“顧客との面談内容”と、“その面談から思いついた商品アイディア”を自由に記述するものである。しかし、提出されていたアイディアは、売れる見込みが薄いということで、ほとんどが却下されていた。そこで、『商品アイディアシート』のフォーマット上の問題点を明らかにし、“顧客視点を基に整理”して情報を洗い出せるフォーマットに変更すると、同じアイディアを基にした情報にもかかわらず、読み手(企画部門および技術開発部門)からの評価が高まり、商品開発につながる有益な情報と判断される傾向があることがわかった。
<読み取り方にも改善余地はあるのではないか>
しかし、現場社員が良い情報を社内に発信できるようになったとしても、企画部門および技術開発部門の読み取り方によっては、情報の活用が不十分に終わる可能性もある。これまでのA社の商品企画会議では、提出された『商品アイディアシート』を基に自由にディスカッションを行ってきたが、ディスカッション方法を工夫することで、シートの情報をより有効に活用できることを確かめるために、簡単な実験を行なったので、この場でご紹介したい。
<実験内容>
「前回変更した新しいフォーマットでの情報」を素材とした商品企画会議(企画部門と技術開発部門による会議)で、“自由なディスカッション”と“読み取り方を手順化したディスカッション”の両方を行い、会話内容を比較分析した。 “手順化したディスカッション”については、本来複数のステップがあるが、まず商品企画の基本である「顧客の真の要望を理解し、顧客に共感してもらえる提案」ということに主眼をおいて話し合っていただいた。
【参考:ディスカッションの手順例】
※今回の実験は下記ステップ1のみで行なった。
- ◎ステップ1〔顧客の視点〕・・・・・・今回の実験対象
・顧客が解決したい要望と、それに対して顧客に共感していただける提案について
- ◎ステップ2〔事業性〕
- ・マーケット、競合、収益性について
- ◎ステップ3〔具体的施策〕
- ・商品内容、技術的課題、価格、販売方法について
- ディスカッションの素材となる『商品アイディアシート』は16枚
(A事業部8枚、B事業部8枚)- チーム員の固有の特性(元々の発言量の大小、発想の豊かさの優劣 等)をできるだけ、解消するため、会議チームを2チーム構成し、2つの事業部テーマで会議手法を入れ替えた。
<実験結果>
※以下は、会話内容を録音し、忠実に“文字おこし”した会議録より分析したもの
(1)発言量の比較
上表のように、商品企画情報の読み取り方を、顧客視点を基に手順化することで、発言数・発言量が大きく増加。議論が活性化された。逆に、自由なディスカッションでは、議論が続かなかった。
(2)発言内容の比較
発言内容を、A社社員など3名の判断により下記4項目に分類した。
- シートの内容に対し肯定的な発言 (例:『これは面白い考えだ』)
- シートの内容に対し否定的な発言 (例:『これは役に立たない情報だ』)
- 新しい提案に繋がる建設的発言 (例:『こうしてみたらどうか?』)
- その他[相槌等] (例:『それは私も聞いたことがあります』)
上表のように、自由なディスカッションでは、『商品アイディアシート』の内容に対し、個人的感想から良し悪しの判断を下すような審査員としての発言が多いのに対し、ディスカッションを手順化することで、このような発言が減少。何とか読み取ろうとする力が働き、自分自身が主体となった提案・建設的発言が増加した。
例を挙げると、自由なディスカッションでは、『○○でそんなにメリットが出てくるのか。』『一般の人も考えていそう。』という発言が多く、手順化したディスカッションでは、『○○は、提案の仕方によっては商品になるだろう。』『なぜこのような要望が出たかというと・・・』『この案自体は実現できなくても、発想は面白い。』という発言が目立った。
これは、従来のA社では、自由に議論していたために、商品企画会議が単なる情報への評価に終わり、そこに書かれている情報からチャンスを発見するための知恵が絞られていなかった可能性を示唆している。
<最後に>
実験終了後、会議参加者からは以下のような意見・感想が出された。手順化することで当事者意識が生まれ、会議がより充実したものになったことが窺える。
- 今までは否定的・批判的に情報シートを読んでいた。
- ディスカッションを手順化することによってシートからヒントを探そうという意識が出てくる。
- (シートの内容が)駄作でも、組み合わせによって面白い案に繋がる。
勿論、業種やテーマによっても異なるであろうが、皆様の会社においても、もし活性化していない会議がある場合は、このように、ディスカッションに手順化という制約条件を加えてみることをお勧めしたい。