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コラム「研究員のココロ」

「全員一致」の不思議

2005年05月09日 森康一


 「社員一同の意見」とか「社員全員の総意」ということをほとんど意識したことがなかったけれど、以前、まさにそういうものを目にしたことがある。そのとき大きな違和感をあったのを覚えている。

 いまどき、社員全員の意見や考えが一致することなどあるのだろうか?

 例えば、部門会議でもいいし、取締役会でもいいし、あるいは井戸端会議でもいいのだが、全員が一致するということがあるのだろうか。意見が割れたり、大多数は一致したとしても別の少数意見が残ったり、あるいは意見を明らかにしない人や興味自体を持たない人がいる、というのが私の感覚。企業や個人を取り巻く環境が複雑になり、変化が早くなり、そして価値観もさまざまである。そんなときに全員が一致するというのは、かえって不自然に思える。
 別の言い方をしてみれば、全員一致の答えや考えが出てくるようなテーマがあったとすれば、そのテーマの設定に意味があるのだろうか。テーマ設定をまず疑ってみたほうがいいのではないだろうか。あるいは意味あるテーマだとしたら、全員一致する組織ってどんなものなのだろうか。

 また、全員の意見が一致したと仮定して、それにどれだけの強みがあるのだろうか?

 そんなにはっきりと唯一の答えや方向性が出るほど、現実は単純ではないと思う。しかも、環境変化が激しいことを考えると、今は正しくても将来どのようになるか分からない。いま全員一致するということは、非常にリスクが高いということではないか。意見が一致しない、つまり多様な意見があるところに、組織としての強みがあるのだろうと思う。

 ある企業の例だが、この企業は自由放任が社風であり、右肩上がりの時代にはそれはそれで機能していた。しかし、低成長・右肩下がりの時代では、自由放任が障害になっていた。そこで管理の仕組みを入れていくことになったが、社員は自由放任に慣れきっている。それがこの企業の良さでもある。経営陣は、「社員は全員一致で管理強化を嫌うだろう」と想像していた。
 そんな中、ある社員の意見を汲み取ることができた。その人は「会社を良くするには管理強化もやむなし」という主張を持っていて、具体的な方策まで考えていた。
 全員一致というのは幻想であり、社員はそれぞれ独自の考えをもっているということを改めて実感した。そもそも、「管理強化に賛成/反対」というテーマで考えること自体に意味がなかったのだろう。この企業は業績低迷に苦しんでいるが、組織はまだ健全であり、復活の可能性があると感じた。
 しかし、形式的に社員に意見を求めれば、「全員一致で管理強化反対」となるかもしれない。このケースでは、社員一人一人とコミュニケーションをとるという基盤があったので、個人の考えに接することができたのだろうと思う。

 つまり「全員一致はありえない」というのが、いまの企業経営、組織経営の前提だと思うし、それが健全な組織、強い組織だとも思う。企業がさまざまな方法で人材を流動化させるのは、そんな考えに基づくのだろう。
 意見が対立するなかで議論が生まれ、新しいアイディアが出てくる。
 少数意見の中に、実はヒントがある。
 意見を出さない人が、よくよくコミュニケーションをとって考えを聞いてみれば、実は意外な考えを持っていたりする
 こういうところが組織の面白さであると思うし、また難しさであるとも思う。
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