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コラム「研究員のココロ」

企業提携や異業種交流の成功は意識改革から <理論編>
~目的のない提携をしていませんか?提携ありきの提携は「コンセプト創造型提携」を目指せ~

2006年02月20日 吉田賢哉


◆「選択と集中」による競争力強化は「提携」を伴う

 近年、企業の経営戦略の傾向として、「選択と集中」が主流となっている。各企業は自社の勝負する領域を特定分野(特定機能)に絞り込んで、強い競争力を確保するために集中的な経営資源投下を試みるようになってきている。すると、必然的に、集中の裏側で資源の投下が行われない分野もいくつか現われることになる。このことにより、選択と集中を行った企業は、顧客に対して全体的なサービスを提供することが困難になる場面が増えるなど、既存ビジネスの維持や、新規ビジネスの開拓に支障をきたす場合がある。
 この対処法として、「提携」が有効である。選択と集中によって自社に生じた欠落点を、それを得意とする他社との提携で補うことが可能となる。提携の相手先企業の欠落点が自社の得意とするところであれば、互いに補完しあうことが可能となり合理的な提携が実現されると考えられる。
 しかし、合理的と見える提携が、常に企業に対してビジネス上の収穫をもたらす「成功と呼べる提携」になるとは限らない。
 本稿では、提携の性質の確認した上で、提携を成功させる鍵として、合理性や効率性の追求に加えて重要な、「意識改革の必要性」を論じる。


◆「提携の目的」の再考

 提携は、選択と集中の戦略を効果的なものとするためだけに限らず、広く企業経営において活用される手段である。まず、そもそも提携とはどういった目的で行われるのかを再考し、提携成功を考える際の土台としたい。(※注
  1. 経営資源獲得にあたって、他社との依存関係を調整するための提携
     企業は、自社以外から何かしらの経営資源を獲得して利用しなければ存続できない。従って企業は、外部から経営資源を獲得しなければならないという観点で他組織(他企業や各種団体)に依存している。しかし、企業はできるだけ自律性を確保して活動しようとする性質を持つ。それゆえ、企業は、どうしても他組織に依存せざるをえないが、できるだけその依存は回避したいと考えるし、また、他組織を自社の資源によって依存させて、自分の支配の及ぶ範囲を拡大させようともする。
     他組織との関係に効果的に対処するために、企業は適切な他組織との結びつきの形態(提携)を考える。すなわち、経営資源を獲得する際に、企業が、他組織へ依存する・他組織を依存させる調整メカニズムとして、提携という手段が存在すると考えることができる[1]。

  2. 経営資源の市場調達と内製化の、中間的な方法としての提携
     企業の行動原理を、主にコストから理解しようとするアプローチが存在する。
    企業は市場での取引によって必要な経営資源を獲得することができる。しかし、経営資源を保有する他組織が高値でしか経営資源を譲ってくれない状況や、どの組織が自社にとって必要な経営資源を保有しているかを調べることが難しい状況などが起こりうる。このような場合、経営資源を市場から獲得するよりも、自社内で獲得する方が、コストや時間の観点から有効な手段となりえる。それゆえ、自社を拡大し、単一組織で経営資源を自前で獲得できる体制を構築すること(内製化)は有効であるといえる。
     だが、自前での経営資源獲得という方法には、巨大化した組織を維持管理するコストが膨張する危険性や、ビジネス活動のスピード低下の懸念、自前で獲得する経営資源の価値が将来減少するリスクなどが伴うことになる。それゆえ、自社を拡大するよりも、市場での取引(市場調達)がコストやリスク回避の観点で有効な手段であるともいえる。
     このように、取引による経営資源獲得と単一組織内での経営資源獲得には一長一短あるが、提携を中間的方法として位置付けることができる。市場での取引よりは他組織と強く結びつくが、完全に同一化してしまうことはない経営資源獲得の方法として提携という手段が存在すると考えることができる[1] [2] [3]。
ここでは、提携の目的について、代表的な2つの考え方を紹介した。
 では、上記で紹介した考え方に従い、資源獲得における他社との依存関係や、資源獲得の際のコスト最小化などに十分注意を払って合理的な提携を行えば、提携は必ず企業にビジネス上の収穫をもたらすであろうか。
 答えは否である。


◆「提携の目的」を作るための『コンセプト創造型提携』

 多くの場合、企業は、ビジネスにおける何らかの最終的なイメージ(作り出したい製品やサービス)を持って活動している。その上で、ビジネス成功のために様々な分析を行って、必要な経営資源を確認する。そして、「経営資源獲得のための他企業との関係を、いかにうまくやりくりするか」、「他企業とどのような結びつき方を実現して、いかに資源獲得のコストを抑えるか」といったことを検討し、最適な対処法として、ある局面においては提携を活用することとなる。
 一方で、経営上の様々な理由から、最近では最終的なイメージが固まっていない提携も少なくないのではなかろうか。近年はビジネス上の不確定要素が多く、経営ではスピードが重視されるので、提携のパートナー探しの時間を省くために、とりあえず有力な相手と提携しておくという発想には一理ある。また、明確なビジネスイメージはなくとも、中小企業を連携させれば何か面白いものが生まれるかもしれないという発想などにも一理ある。このように目的は明確でなくともまずは提携をすることには、理にかなった点がある。
 ただし、最終的なイメージが固まっていない場合の提携は、合理性や効率性を追求することに加えて、「提携への参画意識」がなければ上手くいかない。
 提携を考える際、経営資源の組合せをいかに良くするかに目が行ってしまいがちである。しかし、合理性や効率性からは、提携でやり遂げるべき最終的なビジネスイメージは生まれてこない。それゆえ、最終的なイメージを合理的で効率的に実現するという「目的ありきの提携」ではなく、「まず提携ありきの提携」を成功させるためには、製品やサービスを作り出したいという気持ちが不可欠である。提携への参加企業が、「何のために提携に参加しているのか?」の問いに答えることができなければ、最終的なビジネスイメージを他企業との間で生み出す議論は膨らまないであろうし、ある程度の時間を要するイメージ創出の期間において提携を持続することも難しくなるであろう。要は、「提携への参画意識」がなければ、「仏作って魂入れず」の提携になってしまうのである。一見合理的で効率的と見える提携が失敗する場合は、ここをクリアできていないことが多い。
 「経営資源獲得のための他企業との関係を、いかにうまくやりくりするか」、「他企業とどのような結びつき方を実現して、いかに資源獲得のコストを抑えるか」といった発想は、言い換えると、「経営資源の獲得をいかに効率的に実現するか」に着目しているといえよう。他企業への対処の効率性や、獲得コストの効率性など、「効率」という指標はわかりやすく、目標としやすい。最終的なビジネスイメージがある際に模索される提携は、効率性の追求が問われるといえる。この考えは大抵の提携の使われ方では正しいため、提携と聞いた途端に、企業の関心は効率性の追求に向いてしまいがちである。


 これに対し、最終的なビジネスイメージが存在しない、提携ありきの提携においては、いきなり合理性や効率性を追求するのではなく、ビジネスイメージを生み出すための参画意識を問わなくてはならない。最終的なイメージが存在しない提携であるにも関わらず、そのことを十分に認識せずにいきなり効率性を検討する提携は大概失敗してしまう。逆に、参画意識を持って提携に臨めば、ビジネスイメージが形になってくる間に、多くの学習や経験、人脈の拡大など、ビジネスを効率的に実行する以外の様々な恩恵を享受することができる。本稿では、このような提携を、『コンセプト創造型提携』と呼び、他の提携と区別したい[4]。
 このように、提携には効率化を重視する提携以外に、『コンセプト創造型提携』のような性質の異なる提携があることを認識することが、提携を成功させる際に求められる必要な意識改革の1つである。そして、『コンセプト創造型提携』を実行するために、いかに参画意識を持つようにするかが、もう1つの重要な意識改革である。

 ここまでの理論編では、提携の目的を再考し、最終的なビジネスイメージが存在する提携では効率性の追求が大切であり、目的のはっきりしない提携では参画意識が重要となることを述べた。提携には、参画意識が重要となる『コンセプト創造型提携』のように、一般的な提携と性質の異なるものが存在することを認識するよう、意識改革が必要となる。
 では、目的のはっきりとしない提携ありきの提携において、参画意識を持てるようにするためには、具体的にどのような点に注意して更なる意識改革を行う必要があるだろうか。次回、実践編では、異業種交流会へのインタビューから聞こえてきた声を取り上げながら、コンセプト創造型提携を目指す際に改革するべき意識と、改革後に目指す意識について考察を深めたい。

(※注):
この議論をより深く行うためには、提携の分類についても論じる必要があるが、本稿では紙面の関係上割愛する。提携の分類に関する参考文献として、
  1. Michael Y. YOSHINO・U.Srinivasa RANGAN,‘STRATEGIC ALLIANCES’,HARVARD BUSINESS SCHOOL PRESS,1995,pp.8.
  2. 横山禎徳・本田桂子,「マッキンゼー合従連衡戦略」,東洋経済新報社,1998,pp.25.

などが挙げられる。興味の有る方は、該当ページの図表とそれに対する本文中の解説をご一読いただきたい。


【参考文献】
[1]
山倉健嗣,「組織間関係」,有斐閣,1993

[2]
Paul S. Adler,“Market, Hierarchy, and Trust: The Knowledge Economy and the Future of Capitalism”,Organization Science,Vol.12,No.2,2001.

[3]
佐藤修,遠山暁編著,「中小企業のイノベーション・Ⅰ 競争優位のビジネスプロセス」,中央経済社,2003,第2章.

[4]
吉田賢哉・妹尾大,“Web活用型提携支援システムの分類モデル”,電子情報通信学会技術研究報告 信学技報,Vol.103,No.361,2003.
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