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コラム「研究員のココロ」

高級品ビジネス成功の鍵は「接客」にあり
~スーパーブランドに学ぶ~

2005年04月25日 宮田雅之


 高級品ビジネスの代表である欧米高級ブランド店(以下、「スーパーブランド」と呼ぶ)には、今なお多くの消費者が集っている。
 消費全体が低迷する中にあって、ルイヴィトン、エルメス、グッチ、シャネルなど、むしろ業績を伸ばしているスーパーブランドは少なくない。事実、地価の高い一等地に、スーパーブランドの路面店(自社ビル)が建ち続けている。

 業績好調なスーパーブランドの成功要因は一体何か。商品力、サービス力、ハイセンスな店舗空間など様々なファクターが挙げられる。
 確かに、「欲しい商品」が無ければ商売は始まらない。その意味では「商品力」は重要である。しかし、「シャネラー」のような特定ブランドのマニアでなければ、似たような商品を複数ブランド間で検討することになる。そうなると「商品力」だけでは、成功要因を説明できない。

 以前、エルメス銀座店を訪れた時の話。何気なく香水のコーナーで立ち止まって見ていると、上品な雰囲気の販売スタッフの方が、さりげなく声を掛けてきた。「この香水の色は、“地中海”の青い海をイメージしています。」
 ただの青ではない。“地中海”の青である。この何気ない一言をキッカケに、フランス好きの筆者は、エルメスの世界に引き込まれてしまった。そして、“付かず離れず”の上質な「接客」の中で、心地よい時を過ごすことができた。

 スーパーブランドは「右脳商品※」の代表である。論理的な価値判断よりも、好き・嫌いで、購入するか否かが決まる傾向が強い。つまり、“感覚”に訴える仕掛け作りが重要な商品である。
 エルメスにおける筆者の実体験からも、消費者から支持を受けるための最重要な“仕掛け”は「接客(消費者を“その気”にさせるコミュニケーション・スキル)」にあると考える。

 一方、こんな体験もした。
 某高級紳士服店で、スーツを見ようと、店に入った。目指す商品の置いてあるコーナーに到着し、商品に触れようとした途端、販売スタッフが筆者に近寄って来た。「お客様のサイズは?何色でお探しですか?こんなスーツはお客様にお似合いでは?試着できますが…。」機関銃のように言葉を発射し、筆者のそばを離れようとしない。
 このような状況では、落ち着いて買物をできるはずもない。逃げるようにその店を離れるはめになった。

 不快な「接客」を受ければ、欲しい商品であっても、値引きをされても、買うことをやめてしまう。しかし、高額の商品でも、琴線に触れる「接客」を受ければ、定価であろうと、その販売スタッフから買いたいと思う。
 “当たり前”のことではあるが、この「接客」の重要性を、見落としている企業が多いことに驚かされる。

 シャネルが、2004年12月に銀座通りに旗艦店(自社ビル)をオープンした。初日は、限定品を求める人たちが長蛇の列をつくった。
 その一方で同社は、2003年10月に稼動した船橋の物流センター内に、年間1万人の美容部員を受け入れるトレーニングセンターを設けた。華やかな舞台の裏で、「右脳」を刺激するための仕掛け(「接客」力向上)への投資を、着々と進めている。

 販売不振の企業の方は、是非ともスーパーブランドの店舗を訪れて欲しい。そして、実際に「接客」を体験し、自社との比較をしてみて欲しい。
 しかし、ただ見るだけではダメである。真剣に購入を検討し、良い「接客」を受けたら、購入する気持ちで臨むことが必要である。
 「自腹を切ってこそ、真実が見えてくる。」この“当たり前”の法則も、ないがしろにされがちである。
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