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コラム「研究員のココロ」

それでいいのか!?事業承継

2007年01月22日 野尻剛


1.事業承継の本質は何か?

 高齢化は経営の世界にも現れています。オーナー企業の社長の多くは60代、70代を迎えており、会社を次の世代へとバトンタッチさせていく時期に来ています。こうした事業承継への潜在ニーズは70万件にも及ぶと言われています。

 それでは、事業承継とは一体何をすれば良いのでしょうか?後継者となる社長を指名して、株式を渡しさえすれば事業承継は完了したと言えるのでしょうか?実際、その様に簡単に考えている方が多いことに愕然とします。
 後継者を指名することも、株式を早めに譲渡して相続税対策をすることも大切です。しかし、これらは言ってみれば「会社の器」を承継させただけに過ぎません。より本質的なことは「会社の中身」を承継させていくことです。

2.会社の中身を承継させるとは何か?

 オーナー企業において、社長の力は非常に強いものです。社内に対しては従業員の求心力となり、事業を行っていく上でのノウハウ、経験、人脈というありとあらゆるものが社長という一個人に集中している、と言っても過言ではありません。「会社の中身」を承継させていくと言うのは、こうした社長個人に培われているありとあらゆる経営ノウハウ等を形式知化させ、会社という組織に根付かせていくことなのです。

 この根付かせるというのが曲者で、現実には非常に大変なことです。例えば、社長の持つ営業ノウハウを伝えようと、営業マン向けの研修を行ってみたところで、その時は意識も高まり多少の効果が生まれたとしても、持続的な効果は期待薄です。ましてや、ありとあらゆる経営ノウハウ等をとなったら、とてもじゃないですが一朝一夕に伝承できるものではありません。根付かせていくには、ただただ愚直で地道なプロセスを辿るしかありません。


3.事業承継の解決策としてM&Aは有効か?

 こう考えてくると、事業承継とは面倒くさいものだなー、それならいっそのことM&Aで会社を売却してしまおうかと考える方も多いかと思います。しかし、よく考えてみてください。社長という一個人にノウハウが集中したままの会社を、社長抜きで一体誰が好きこのんで買うでしょうか?会社自体に非常に魅力的な経営資源がある、あるいはオペレーションを合わせやすい業種・業態でなければ、買い叩かれるのは必至ですし、買い手が見つからないことも十分に考えられます。
 結局、事業承継時にM&Aが有効に機能するケースは、本質的な意味での事業承継の課題を抱えていない企業だけであり、多くの場合はオーナーにとって不満の残るものにしかなりません。

4.事業承継の道筋

 結局、事業承継は、ある一点の象徴的なイベントをもって実施・完了するものではなく、長い道筋の上に行われていくものです。その道筋の中で、社長自身がいなくなっても安心して任せられる組織を形成していかなければなりません。では、どうすればその様な組織が出来上がるでしょうか?以下、そのヒントとなる事項を列記し、本稿の結びといたします。

(1)複数人に役割分担をする

 これまで社長一人が担っていたものを、まるまる受入れられるだけのキャパシティをもった人がいることは稀でしょう。しかし、その一部分であれば任せられる人は必ずいるはずです。営業に長けた人、財務に長けた人、そのように複数人に役割分担をし、権限と責任を与えることで、絵に描いた組織図ではない、本当の組織が徐々に出来上がっていくはずです。

(2)思いきって任せてみる

 上の話とも絡みますが、役割を与えた以上は思いきって任せてみることが重要です。役割を与えたばかりの段階では、社長自身がやった方が良く出来て当たり前です。ついイライラして口を出す、代わりにやってしまう、これではいつまでたっても人は育ちません。

(3)仕事の標準化・システム化を図る

 会社を上手く経営していくには、ロジカルな面とアートな面とがあります。社長個人への依存度の高い会社は、自ずとアートな面の占める割合が高いといえます。これをそのままの割合で承継させてしまっては、経営の舵取りが狂ってきてしまうことは自明の理です。これまでアートな領域として処理してきた仕事についても、標準化・システム化を図り、ロジカルな領域へと翻訳してから承継させていかなければなりません。

(4)ロードマップと活躍の場を与える

 俺の背中を見て育て、技術は教えるものではなく盗むもの・・・確かに一理ある言葉ですが、これからの社会情勢を考えると、この姿勢は改めなければなりません。一つの会社に勤め上げるのが普通だった時代は終わりました。社員は放っておけば辞めてしまうと考えるべきです。社員という一個人から会社を見た場合、会社は自己の実現欲と生活保障を得るための場所であり、現在働いている会社は無数にある選択肢の一つに過ぎません。一つの所に留まり頑張るよりも他に機会を求める、若い世代を中心にそうした考え方をする人が増えてきています。社員にとって魅力的な会社であるよう努めなければ、人口減少時代に突入するこれからを乗り切るのは難しいと言えます。
 そのためには、前述のような姿勢を改め、社員教育のあり方を考え直さなければなりません。自社に勤めていくことで、どういったスキルが身につき、どういった社会人へと成長していけるのか、そのロードマップを示し、それを実現させステップアップしていくための活躍の場を与えることが必要です。特に、オーナー企業の場合には、オーナーの人柄等人間的な魅力に惹かれ働いている社員も少なくありません。オーナーの退任に伴い俺も次のステージへ、そんな風に考えている社員は意外に多いものです。
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