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コラム「研究員のココロ」

企業風土を見つめなおす
~経営改革ワンポイントアドバイスシリーズ(No.6)~

2005年03月22日 宮地恵美子


経営改革クラスターが携わったコンサルティング事例から、課題解決に効果が高かった視点・手法を、ワンポイントアドバイスの形でご紹介しております。詳細については、クラスターに直接お問合せください。


企業風土が経営に与える影響

 最近コンサルティングを行う中で特に思うことは、企業風土が経営に与える影響である。
 我々コンサルタントがコンサルティングを行う流れは、各種の分析を行いその企業や事業の課題を抽出し、戦略や方向性を策定するのが一般的である。分析により、その企業の課題や方向性は明確になる。しかし、これを実行する段になると、論理的に整理した事柄以前に、企業風土をいかに意識してアクションプランを策定するかが最も重要となってくるのである。
 同時期に会社創業以来の期間の異なる複数の企業を観察する機会があったため、それらを比較して企業風土と経営との関係について考えてみたい。


企業により風土はどのように異なるか

 ご自身の会社はこんな風土がある、と認識していても、果たしてそれが他社とどのように違うのかは、はっきりわからないものであろう。
 企業風土は、企業としての時間を経る中で社員の中に培われる共通する物の考え方や行動パターンということができ、当然のことながら長い歴史のある会社ほどはっきりしたものがある。歴史のある会社では、風土は全社員にしっかり染み付いている、といってもよいくらいである。これは入社して間もない社員にもかなり当てはまる場合が多いので、面白いことではある。
一方、歴史の浅い会社でも、またそれなりの風土があり、これはこれで無視できない。では、企業により異なる企業風土と経営課題とはどう関係するだろうか。


  • ベンチャーA社の場合

  •  歴史の浅いベンチャーともいえるA社は、新しい企業らしく、社員の年齢構成も若く、会議の席でも前向きな意見が多く出る。このような企業では、企業を成長させるにあたって企業風土が問題になることはあまりないように思われる。様々なアイデアが出る、決断が早い、など、成長し落ち着いてしまった企業にはない、若々しい風土がある反面、緻密さやチェック機能が甘いという面がある。近年ではコンプライアンスに対して非常にシビアになってきているが、成長志向が強いがゆえに、今のままの風土では将来何らかの危機が発生する危険性がある。
     成長志向に対し、緻密にチェックするという考え方は、どちらかというと相対する部分があり、わかってはいるがどうしてもチェックが後回しになってしまうところがある。「まずはやってみよう」という姿勢は非常に好ましいが,押さえるべきところがどうも手薄になってしまう。前向きな風土のよさを生かすことと、スピードを落とさずにチェックできる体制とを共存させていくことが現在の最大課題となっている。

  • 歴史のあるB社の場合

  •  歴史ある会社では、A社のような活動的な風土を保ち続けている場合は少なく、どうしても保守的になってくる。B社は自他共に認める「石橋をたたいて渡る(もしくは渡らない)」風土の会社である。この風土のおかげでバブルの影響も受けず、現在でも業績に不安はあまりない。成長戦略を描くことが急務になっているわけではないのだが、将来を見据えれば今のままの保守的風土ではまずい、と考えている。
     B社の場合、本業においては「まずはやってみよう」という発想は実際効果的ではないため、今後新しい事業の柱を作る際には、社外の知恵や人材の積極投入が一つの解決策になると考えられる。

  • 非常に歴史のあるC社の場合

  •  C社は「超」がつくといっていいほど歴史のある会社であるが、その長い歴史の中、成功と成長、あるいは挫折を経て、「頼りあう」といえる風土が作られた。「頼りあう」というと、もちろんよい面もあるが、C社の場合「決断者が誰かわからない」という現状になってしまっている。結局現場任せ、巨大な組織の中で現場が右往左往してしまっている。
     以前、平社員が背中に、課長→部長→常務→専務→社長と何人も背負い、社長から順に下の職階に「頼むんだぞ」と言ったり、「だめじゃないか!」と叱咤する、という転職のコマーシャルが放映されたのをご覧になった方も多いと思うが、それに近い状況である。C社では、会議が多く会議の出席者も多く時間も長い、書類・報告物類は膨大、指示は「頼むよ」といったもの、等々一番下の社員は本当につぶれそうになっている。
     これでは課題の解決といっても、この風土を何とかしなければ無理である。そのため、C社では企業風土改革を経営改革の最大テーマとして最優先で取り組んでいる。


    企業風土を生かした経営

     人の性格と同様、完璧な風土というものはありえないだろう。敵無しといってもよいトヨタの風土は、外から見ると「真面目」で「そつない」ような感じがある。これに対しホンダは「新し物好き」といっていいような風土に見えるが、両社とも企業風土を生かした経営を実践している点では共通している。
     トヨタはそのホームページの中で、コンプライアンスの考え方を示すにあたり、トヨタ独自の3点の企業風土を挙げている。また、ホンダではトップメッセージの次のページに、ホンダの企業風土をまずあげており、両社とも企業風土をいかに重要視しているかがうかがわれる。
     企業分析や最新の戦略策定の理論については、様々な書籍が出版され、コンサルタントが行わなくても、それら指南書を元に社内で行うことが現在は十分可能になってきている。しかし、それらの指南書も戦略実行に当たっての企業風土の取り扱いについてはあまり触れていないように思う。
     我々コンサルタントは、分析と戦略策定に精通していることはもちろんであるが、外部から客観的に企業風土を見ることが出来る、という点が武器である。企業組織風土調査というツールも活用し、実効性のあるコンサルティングを行うよう努めている。その経験からも、自社で戦略や新規事業計画を策定する場合などには、企業風土に対する考慮をぜひ取り入れることをお勧めする。そのためには、客観的に自社を見つめることが必要であるが、その部分だけでも第3者に指摘してもらうことが効果的ではないかと思う。
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