コラム「研究員のココロ」
消費活性化の鍵は「手が届く贅沢」にあり!
2007年01月05日 宮田雅之
年末の銀座の街を歩くと、大変な人出である。「実感無き経済成長」の続く昨今ではあるが、こと都心における消費活動は活性化し始めていることを実感する。人気の飲食店は、休日前に行こうとすると相当前に予約することが必要になってきている。ここ数年の日本の消費トレンドを振り返りながら、“消費者の視点”で「消費活性化の鍵」を考えてみたい。
デフレを通して学んだこと
バブル崩壊後のデフレ局面においては、多くの人たちが価格コンシャスな消費行動に走った。不透明な将来に備えて、極力支出を抑えたためである。100円ショップに代表される「低価格」路線の消費が活況を呈した。何とも言えない寂しい日々を過ごした人も多かったと思われるが、こうした経験を通して見えてきたものがあった。それは「どれ位のお金があれば、生活をやり繰りできるか、その下限が分かった」ことである。森永卓郎氏の「年収300万円時代を生き抜く経済学(光文社)」がベストセラーになったりもした。
下限を知れば余裕が生まれる
こうして生活に必要な最低限の金額を「実感」できたことは、消費者の心に余裕を与えた。スポーツで、地獄のような極限に追い込まれた中で練習を積むと、苦しいはずの試合も自分のペースで展開できたりすることに似ているかもしれない。
どれ位のお金を確保しておけば良いかが把握できた消費者は、「極力使わない生活」から「可能な範囲でお金を使おう」へと考えを変え始めた。例えば、500万円が生活するのに最低限必要な金額であることが分かれば、550万円稼げれば余裕分の50万円の範囲で「お金を使う」ことができると考え始めたのである。
許される贅沢
「使わない」から「使おう」にスイッチが切り替わったことは、大変大きな変化である。それまで手控えていた「衝動買い」も復活することになる。「景気」の「気」は、まさに「気持ちの持ち方」の「気」である。
消費の欲求を抑えてきた反動で、「贅沢」消費も顕在化し始めて来た。所得の二極化の中で、富裕層が「贅沢」消費を牽引していると一般的には解釈されているが、インターネットが発達し情報のギャップが少なくなった昨今においては、(富裕層の生活に憧れを持つ)普通の人たちも含めた消費行動となっている。
しかし、バブル時代と大きく異なる点がある。それは、何となくムードに乗って贅沢をするのではなく、しっかり「使える金額」「使っても良い範囲」を認識しながら消費をしている点である。無節操な贅沢ではなく「許される贅沢」を楽しんでいるのが、今の消費者像である。
高額よりもプレミアム感
贅沢消費というと、高額商品の購入や高級レストランでの食事、あるいは高級ホテルへの宿泊や高級エステの利用などが思いつく。確かに、そのような消費が象徴的な例として各種のメディアで取り上げられている。
しかし、もう少し細かく見てみると、金額の高さとはちょっと違う「プレミアム感」という視点がキーワードとして挙げられることに気付く。必ずしも絶対値が高額ではなくても、普通の消費とは一味違う、ワンランク上の消費が注目されていると感じる。例えば、「限定品」はこのキーワードに当てはまる。
限定品の魔力
もともと、「限定品」ビジネスは女性への有効なマーケティング手法として多くの企業が採用している。化粧品では「限定色」を「限定数」発売すると、真っ先に売れて行く。欲しくても、誰もが買えるとは限らないことは消費者の心を刺激する。
筆者も最近こんな体験をした。親しくして頂いている某企業の経営者の方を尋ねる手土産として、テレビで見た「GUCCIマークの入ったチョコレート」を話のタネに買うことにした。たまたま銀座に別の用事もあったので、グッチ銀座店に開店時間の1~2分前に到着できた。すると入り口には行列が出来ていた。確かに新しい店舗ではあるが、オープンしてから既に1ヶ月近く経っている。モヤモヤした気持ちの中、開店時間となり、店舗に足を踏み入れると行列の理由が分かった。筆者と同様「チョコレート」目当ての行列であったのだ。お店のスタッフに聞いてみると、一日に販売する数に限りがあるとのこと。4粒で1500円のチョコレートは、まさに「限定品」と言うプレミアムの付いた「手が届く贅沢」だったのだ。
ブランドのなせる業
もちろん、「限定品」にすれば何でも売れる訳ではない。その商品の背後にある「ブランド」のストーリーがしっかり消費者に認識されていることが前提と言える。先のチョコレートの件も、グッチと言う「ブランド」があるからこそのなせる業である。
つまり、消費者にとって「限定品」は、背中を押してくれる要素ではあるが、「ブランド」に魅力がなければ、消費対象の候補にさえ挙がらない。日々の企業活動の中で行われる「ブランド」を磨く地道な努力があってこそ、限定品という「手法」が活きるのである。
贅沢=人間の基本的な欲求
人間が「贅沢したい」と言う欲望は未来永劫無くなることはない。贅沢することは、時として人間の気持ちを豊かにする。できる範囲で贅沢をしたい欲求は、今後も消費を下支えするはずである。
こうした消費者のニーズに応えるべく、継続的に「ブランド」力をブラッシュアップする企業姿勢こそが、中長期的な消費の活性化に寄与すると考える。贅沢消費を「トレンド」と見るのではなく、「人間の基本的な欲求」の一つと位置付け、長い目で自社の「ブランド」を育てることを、是非とも経営者の皆様にお願いしたい。そして、「ブランド」に裏打ちされた「手が届く贅沢」を通して、我々一般消費者の生活を楽しませて欲しい。