「個人営業から組織営業へ」、「営業の結果管理からプロセスマネジメントへ」といったことが、書籍や雑誌でよくとりあげられるようになってから随分経ちます。大手企業を中心に、実際に営業の改革に取組む動きも広がっています。
しかし、思ったように成果を上げられない企業も多いのが、実態ではないでしょうか。このところ、私たちのチームでも、年商数億円から数百億円の企業まで、規模の大小を問わず、「営業力の強化をしたい」「営業を変えたい」というご相談を受け、実際にお手伝いをさせていただくケースが増えました。なかなか思ったように業績が伸びない中で、技術開発や商品開発に取組むが、やはり「最後は営業だ」ということなのでしょう。
会社として、組織として、「営業力が強い」というのは具体的にどういうことでしょうか。この問いに答えるための鍵は「マーケットの変化への対応力」にあるのではないか、と思っています。これは「成長するマーケット、あるいはこれから成長の見込めるマーケットで、ライバルに先駆けてしっかりとお客様(得意先)との関係が築けるか」ということです。IT業界のように新しく、技術進化の早い業界だけでなく、衣・食・住のような業界でも、マーケットは激しく変化しています。ヒット商品の入れ替わるサイクルも早くなっていますし、異業種などから思わぬ急成長企業が現れたり、ライバル同士の合従連衡が進むなど企業間の競争も目まぐるしく変わっています。
「営業」においてなかなか成果を上げられない企業は、この「変化への対応力」が弱いのではないか、という気がします。その理由をいろいろ考えてみると、問題は、特に中堅~中小企業の場合、(1)営業担当者個人の結果管理にとどまり、個人の「頑張り」に頼っていること、(2)「戦略スタッフ機能」が弱いこと、この2点に尽きるのではないか、というのが実感です。
順を追って具体的に説明しましょう。
個人別管理の限界
いまだに営業担当者の個人の成績がどうか、ということに管理の重点がおかれている企業は少なくありません。大雑把にいうと、A君の成績が今月どうだったか、彼の成績が目標を達成していれば、あるいは前年比を上回っていればOK、そうでなければ彼の上司は、A君に「来月はもっと頑張れよ」と発破をかける、というやり方です。(こういう会社は、全社レベルでは、管理の対象が「A君」という個人のかわりに「~営業所」や「~支店」に変わるだけで、たいていは同じやり方が適用されます)勿論、営業担当者個人のやる気を引き出す上では、個人に目標をつけることに意味があるかもしれません。しかし、今の時代、個人(あるいは営業所長や課長のような営業マネジャー)に発破をかけて実績があがる会社は、よほど業界全体が活況を呈しているか、その会社の製品・サービスに競争力があるか、いずれにせよ「恵まれている」稀有なケースだと考えるべきでしょう。むしろ、個人に発破をかけるだけで実績が上がることは少ない、ということを多くの方が実感されているのではないでしょうか。
例えばA君が担当している顧客は、その顧客自身がどこも業績が厳しく、当社が売り込んでいる商品の購入量自体を減らしているかもしれません。あるいは、A君の担当している主要な得意先に対して、ライバルがシェアを奪うために相当有利な取引条件を提示してきているかもしれません。もし、そうした状況が起こっているなら、どんなにA君が頑張ったとしても、実績はあがりません。
個人の努力に期待する前に、そもそも当社が現在、攻めている市場、顧客は正しいのか、もしくは攻め方(商品・サービスや販促ツール、取引条件など)が適切なのかを検証するべきです。需要・ニーズのないところにいくら売り込んでみたところで、売れないものは売れませんし、仮にニーズがあっても、ニーズにぴったりフィットした商品や、それを説明するツールがきちんと用意されていなければ、やはり結果は同じことです。同時に顧客のニーズは常に変化する、ということを忘れてはなりません。昨日まで売れていた顧客に、同じ商品が今日も売れるとは限らないのです。営業担当者個人の成績(その延長として営業所などの部門の成績)だけを見ていては、マーケットや顧客のニーズの変化は察知できません。結果として、会社として打つべき「次の一手」が遅れてしまうのです。しっかりと見ておくべきはマーケットであり、顧客の変化なのです。
従って、まず必要なのは、変化する市場に対して、需要・ニーズのあるところに、資源(営業担当者)をきちんと配分・配置し、適切な準備を用意し続ける、ということでしょう。こうした作戦を考える機能を私たちは「営業戦略スタッフ機能」と呼んでいます。
中堅~中小企業こそ、営業戦略スタッフ機能の強化を
中堅~中小規模の会社では、この営業戦略スタッフ機能がない、あるいは弱いケースが多いのです。「どのような市場、顧客を攻めるか」も「その顧客をどうやって攻めるか」も、多くは営業担当者個人(あるいは営業マネジャー)の工夫と努力に委ねられています。先に述べた、「変化への対応力」という観点からいえば、このことは大きな問題だと言わざるを得ません。
営業担当者一人一人は、それぞれが努力し、売上の上がる先、すなわち自社にとって魅力的な市場や顧客を探し、実際に営業活動を行っているでしょう。結果として一部、既存先への新しい提案や、新しい顧客の開拓に成功するかもしれません。しかし、ここに早晩ライバルが気付き、思い切って営業のパワーを投入してきた瞬間、個人の力の限界が露呈します。例えばライバルが専任部隊を編成して、十分に練られた販促ツール等で攻めてきたとき、個人の努力だけで新しく開拓した顧客を守りきることができるでしょうか。
担当者が発見した顧客のニーズに対して、それが自社にとって魅力的だと判断したら、思い切って既存の営業部隊から人員を抜いてでも、そこへ人員を投入し、ライバルに先駆けて一気にその新しい市場を制覇してしまう、そういうドラスティックな動きが必要です。これが「会社としてマーケットの変化に対応する」ということです。そのときには製造部門や研究部門のサポートも必要になるかもしれません。営業担当者個人の力量のみに頼るのではなく、まさに「全社をあげて攻める」、そういう発想なしに、新しい顧客を開拓したり、既存の得意先との取引を拡大することは、ますます難しくなってきています。マーケットの変化が早く、限られた成長市場をライバル同士で奪い合う現在、個人の工夫、努力で見つかった「小さな兆し」を、会社として「大きな流れ」に増幅・拡大できるか否か、このことが競争を勝ち抜く大きなポイントなのです。
こういった作戦を立てるためには、自社が置かれている状況を広く捉える大局観=俯瞰する視点が必要です。営業担当者個々人は、自分が担当している顧客についてはよく知っているかもしれませんが、自分の担当以外の顧客についてはあまり情報を持ち合わせていません。会社として付き合いの無い新規の先については尚更です。個々の担当者から刻々と変化するマーケットの情報を吸い上げ、整理し、読み込んで次の一手を考える、ということが重要です。ここでは「一担当者」としての視点ではなく、マーケットの大きな流れ、自社全体を見渡す視点が求められます。
能力のある営業マネジャー(営業所長など)は、自分の担当する営業部隊に関しては、大きな作戦を立て、担当者を動かしているかもしれませんが、「会社全体で」となったときには、なかなか実践できていないのが実態ではないでしょうか。
営業担当者の数が100人を超えるような規模の大きな会社では、「営業企画」とか「営業戦略室」など名称は様々ですが、いわゆる「ライン(現場、前線部隊)」から外れた「スタッフ(作戦本部)」部門を(きちんと狙い通りに機能しているかどうかはさておき)たいてい設置しています。ところが、中小~中堅規模の企業の方とお話していると、「うちは営業マンが何百人もいるような会社じゃないですから、スタッフなんて」といった主旨のご意見をよく耳にします。ここで確認しておきたいのは、必ずしも部門としてスタッフを設置せよ、といっているのではない、ということです。重要なことは、戦略スタッフ「機能」が欠かせない、ということなのです。繰り返しになりますが、戦略スタッフ機能というのは、「当社がどういったマーケットで戦うか」「狙ったマーケットでライバルに対してどのような手段で勝つか」「そのために営業部隊をどのように機敏に配置するか」という戦略=作戦を立て、その作戦をマーケットの変化に合わせて、常に進化・更新させつづける機能のことを指します。これは極論すれば、例えば営業担当者が3人しかいない会社であっても必要な機能なのです。
以上のような話をすると、「うちは今の得意先の状況もわかっているし、どの業界に攻めるかも営業担当者に指示しているから大丈夫だ」とおっしゃる企業の方もいらっしゃいます。中堅~中小企業の場合、多くは、社長、あるいは営業部長のような営業の責任者の方がある程度、号令や指示を出しておられるからです。しかし、本当に大丈夫でしょうか。
最後にあなたの会社が、マーケットの変化に対応できる営業力が備わっているかどうかをチェックするための、簡単な質問を用意しました。自社の営業力に不安を感じておられる方も、「うちは大丈夫だ」と思われる方も、一度改めてチェックしてみてください。
- 現在取引している市場(業界や地域など)、顧客でどんなところが伸びているか、あるいは低迷しているか、また、その要因はつかめていますか。
- 現在取引している市場、顧客のうちで(単なる当社の売上上位といったランキングだけではなく)特に重視して攻めたい市場、顧客(重要ターゲット)は決まっていますか。また、それらは定期的に更新されていますか。
- その重要ターゲットに対する具体的な目標(売上や利益目標だけでなく、「~業界で5社開拓をする」といった目標でもよい)と、目標を達成するための方針(攻め方)、具体的な施策はありますか。
- 新規開拓について、(単なる電話帳や業界紙の名簿ではなく)「会社として攻めたい先のリスト」が、具体的な固有名詞付きで整備されていますか。また、それらは定期的に更新されていますか。
- その「攻めたい先」について、誰が商談し、どのような状況になっているか、取引を進める上で課題は何か、といったことはつかんでいますか。またその課題を解決するための施策を講じていますか。
- 主要なライバルについて、基本的な戦略と主要な施策をつかんでいますか。
- 以上の質問に関して、全てを詳細に答えられる人は社内にいますか。