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コラム「研究員のココロ」

中国進出における事前調査とその活用方法

2006年01月06日 平田隆


 最近の『政冷経熱』の状況の中にあっても、日本企業の中国進出は相変わらず盛んです。一般的に、日本企業が「中国」を考える時、先ずはじめに中国及び中国市場の調査から手をつけるケースが多いものですが、「調査」に対する考え方、「調査結果」の活用方法に問題があるため、入り口で挫折してしまうケースも散見されます。
 中国での調査といっても、特別の調査があるわけではありません。つまり、日本でも行う通常の調査を地道に実施するだけです。但し、国情の違いから来る種々の煩雑な問題をいかにクリアしていくかがポイントとなります。外国人が行った方が良い調査と外国人には出来ない調査があります。以下、我々が日頃実際に接している調査において感じていること、注意すべき点とアドバイスしている点をご紹介します。

1.事前調査を開始する前に
  • 中国進出の目的の明確化(ブームに乗せられた進出計画程危険なものはない)
  • もう一度、中国進出の必要性(中国進出は絶対に必要か?どらかと言うと必要か?)
    海外進出はリスクが伴うため、どちらかというと必要と言う場合は、慎重に!
  • 事前調査の時間とコストの再確認

2.事前調査の進め方
具体的調査項目の決定
項目はより具体的に。抽象的な項目はろくな結論が得られない。項目はできるだけ少なく絞り込む。調べることはポイントのみ。項目を多くしても結果は同じ。また、当然ながら項目と目的がはっきりとリンクしていることが、重要である。

調査地域の絞込み
中国全土の実地調査は困難。全国調査=文献調査とならざるを得ない。中国は地域差が大きい。大都市間でも違いがある。北京周辺を調べるのか、上海周辺を調べるのか。

誰が調査するのか
自社員による調査か外部委託か。外部委託だからといって、任せきりは禁物。自分達でも考え努力する姿勢が重要。これが調査結果の検証に役立つ。最も役に立つのは、文献調査ではなく、実地調査である。自社に調査人員がいるか。能力は十分か。時間的余裕はあるか。

いつまでに結論を出すか
スケジュールを明確に! 調査のための調査は回避。ダラダラ調査は役に立たない。出来ない調査を無理にやってもろくな結果は生まれない。中国は分からないことが多い。分からないことは、わからないこととして、先に進むか、中止するかの決断。

3.調査項目と結果をどう見るか

 調査結果を鵜呑みにするのではなく、検証してみる、確認してみることが重要。
市場調査
文献調査、聞き取り調査と実地調査のセットが最も実情が把握できる。ここで、注意すべき点は、中国の場合、愛国的人士も多いことから、架空と思われる意見もあり、必ず複数の専門家から意見を聴取することが必要。一般的な仕入れ価格、販売価格などは、実地調査で聴取できればベストであるが、実際には難しい点もあり(特に外資系)、文献調査のデータより類推する事が多い。また、実地調査では地域を絞っての市場調査が必要。全土の調査は困難である。実際のマーケット、仕入れ候補先、販売候補先、同業者(外資、地場)を訪問して調査。地場企業は比較的好意的に情報を開示してくれるが、外資系同業者調査はなかなか難しい。時間的制約を考えると、地場企業実地調査を中心に行うほうが効率的。価格の単純な比較は危険。原材料と品質を良く検証すること。中国の原材料を使って中国の技術で、中国で生産したものは、当然安い。また、品質がよければ高くても中国で売れるという考え方は成り立たない。業界によっては、中国ではそれ程高い品質の製品を要求しない場合がある。自社の技術力を過信しないこと。中国には安ければ良いという市場も多く存在している。

進出候補地調査
進出の目的によって、進出候補地は違ってくる。中国国内販売が目的か、輸出が目的か、労働集約型か、熟練労働者・技術者が必要か、パートナーの存在の有無。
(輸出が目的)…沿海部。輸出先との物流状況が大きなポイント。
(国内販売が目的)…販売先、消費地までの距離。中国国内の物流の発展には大きなムラがある。どうやって運ぶかが重要なポイント。
(熟練労働者・技術者が必要)…大都市の近郊に限られてくる。地方都市では、技術者がいるところもあるが、熟練労働者は少ない。沿海部の大都市周辺。
(労働集約型)…沿海部大都市周辺、特に上海周辺の労働コストは上昇傾向にある。内陸部もしくは沿海部でも大都市周辺でなければ、コストは安く済む。但し、インフラ、物流には難点あり。沿海部の田舎よりむしろ内陸都市周辺の方が整備されている場合がある。
調査で確認すべき項目としては、工業用水の確保・料金、排水制限(環境規制)、電気・ガスなどの整備状況(候補地の前まで配線・管されているか)、人件費と労働力確保状況、土地代・賃料、優遇政策。特に最近は、環境規制が厳しくなっているので要注意。
中国の土地権利関係は複雑であるから、開発されている工業区を除き、十分検証のこと。一般的に、工業区は国>省・直轄市>市>郷・鎮の順で信用力がある。開発区の主体をしっかりと見極めること。一般的に中国の土地代は安いが格安の物件には必ずそれなりの理由がある(日本と同じ)。完璧な進出地はない。どこで妥協するか。

進出形態調査(認可取得の可能性、パートナー必要の有無)
外国資本100%(独資)での進出が可能な業種か、合弁等の必要のある業種かの検証。生産する製品、業務に関する規制の有無。会社設立認可以外の認可事項が必要か否か(例えば生産許可など)。奨励項目か、制限項目か、禁止項目か。

 以上3つの事前調査を総合的に判断すると、自ずと進出方針が見えてきます。但し、中国で完璧を求めることは無理。どこで妥協し、決断するかがポイント。完璧を求めると、調査に継ぐ調査の連鎖に陥り、結局進出計画は頓挫することになります。
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