コラム「研究員のココロ」
市長、不動産の証券化をご存知ですか?
2005年02月14日 日吉淳
わが国ではこれまで、会社の資産は多いほうが優良企業、不動産をたくさん持っている会社が安定していていい会社という評価が一般的になされていました。しかし、バブルの崩壊により土地の価格は急落し、不動産を多く抱えた企業が相次いで倒産しました。いわゆる土地神話の崩壊が起こったわけです。さらに、時価会計の導入が追い討ちをかけます。企業の保有する資産は常に時価で評価されることとなり、資産を持っていることが逆に会計上の大きなリスクになってしまうことになってしまいました。この結果、土地をたくさん持っていれば安心という常識は通用しなくなり、企業の評価は資産の規模ではなく、収益力による評価が中心となりました。
そこで、企業の経営者はこぞって債権流動化や不動産証券化など「オフバランス」という経営手法を取り入れます。要は、少ない資産で大きな収益力を挙げることがいい経営であり、同じ収益力であれば資産は少ないほうがいい会社という、これまでとは全く逆の考え方になったということです。また、これまでの日本企業は事業をすべて自社の経営資源で行いたがる、いわば「自前主義」の発想でした。しかし、これでは資産効率の面でも競争力の面でもベストなパフォーマンスを発揮することは期待できません。
近年ではすべての事業を自前で行うのではなく、自社の経営資源は得意分野に集中し、アウトソーシングやアライアンスにより外部から足りない経営資源を調達するという考え方に転換しています。これも資産規模重視から資産効率重視への流れと捉えることができます。このように、現在勝ち組みといわれている企業は、企業価値向上のため、いかに資産あたりの収益性を上げるかに注力しており、投資家の厳しい目に耐える効率的な資産戦略を進めています。
一方、わが国の地方自治体はどうでしょうか。潤沢な補助金や地方交付税を背景に、たくさんの公共施設が建設されてきました。その結果、自治体の財政支出に占める施設の維持管理経費が膨れ上がり、自治体の財政を圧迫する要因になってしまっています。地方自治体が民間企業と最も大きく異なることは、投資家の評価に晒されることがない点です。地方自治体が発行する債権(地方債)は、基本的には政府が面倒をみているため、国が倒産しない限りは利払いや償還が保障されています。よって、投資家の評価を上げるための努力は不要であり、いまだに自前主義かつ資産を多く抱える非効率的な行政経営がまかりとおってきたわけです。
しかしながら、三位一体の改革や地方債の制度改革など、地方自治体を取り巻く環境は大きく変わりつつあります。補助金や地方交付税といった国からの財政的支援は今後大きく削減されていき、地方自治体が財務的に自立していくことが必要な時代になっていきます。そのためには、地方自治体においても保有する資産を効率的にしていく「戦略的資産マネジメント」の発想が重要になってきます。
地方自治体における資産の効率性は、資産価格や資産管理コストあたりの公共サービスのパフォーマンスで評価できます。近年導入が盛んな政策評価では単年度の予算に対する政策のパフォーマンスがチェックされていますが、もう一歩進めて、自治体が所有する資産に対するパフォーマンスもチェックなされるべきです。
最近では、公共サービスの提供のため、PFIやアウトソーシングなど、戦略的資産マネジメントにも効果がある手法も取り入れられつつあります。今後はアセットマネジメント、プロパティマネジメント、資産流動化など、民間企業が積極的に取り組んでいる新たな手法も導入が進められてくるのではないでしょうか。
「これからは資産戦略の時代です。社長、不動産証券化をご存知ですか?」という不動産会社のTVコマーシャルをご覧になった方も多いかと思います。近い将来、我々のようなコンサルタントが、「市長、不動産の証券化をご存知ですか?」と市役所でプレゼンテーションする日も近いかもしれません。