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Business & Economic Review 2009年5月号

【特集 人口減少下の都市・地域の再生】
「特集人口減少下の都市・地域の再生」について

2009年04月25日 調査部



わが国の総人口は、2005年におよそ1億2,800万人に達して以降、ほぼ横ばいを維持してきたが、今後は徐々に減少に転じていく。国立社会保障人口問題研究所は、2025年には1億2,000万人を割り込むと推計している。

現時点における人口減少速度は、全国的にみれば緩やかであるものの、地方に限れば若い世代が大都市に流出し、人口減少に拍車がかかっている。近い将来、高齢化が進み、経済・政治の中心都市においても衰退に歯止めのかからない地域が急増することは必至である。これらの地域では、経済が停滞して税収が減少するなか、公共施設・設備の維持管理や行政サービス提供コストがネックとなり、財政の持続性を確保することが困難となる可能性が高い。

わが国はこれまで人口増加を前提とし、いわば拡大開発志向で社会や都市の構築に取組み、国を形作ってきた。しかしながら、このような発想の国土設計や開発は、人口減少の進む現状との間に、深刻なミスマッチを生じつつある。高齢化するニュータウンやシャッターの下りた商店街、必要性に疑問符がつく公共施設などがその典型である。

21世紀に入り、人口減少などの社会経済環境の大きな変化を受け、とくに地方において、新しい発想による地域や都市の再構成が不可欠となっている。中長期的視点に立って地域や都市を再構成するために、各地域で取り組むことがとくに必要な課題として、次の3点を挙げることができる。

◆ 地方経済を活性化させる成長戦略
◆ 持続可能な地方の行財政システムの構築
◆ 衰退する都市や地域の再生・活性化

一つめの課題について敷衍すれば、2002年以降の戦後最長の景気回復局面下においても回復の遅れが指摘され、さらに2008年秋以降、経済危機のダメージを最も強く受けている地方においては、短期的な景気対策にとどまらない、中長期的な成長戦略を明示することが求められている。すなわち、地域経済を牽引する産業の育成や諸外国との直接的ネットワークの構築、人材育成など、長期的な視点に立った経済活性化戦略の構築が必要となっている。

二つめの課題である行財政システムについてみれば、地方分権を見据え、自立性の高い持続可能な地方財政のあり方や行政の役割の見直しを急ぐ必要がある。国と地方の役割分担の議論を踏まえた負担の在り方、具体的には税体系や自治体間の財政調整制度の設計が急務である。ひいては民と官の役割分担についての根本的な議論が求められている。

三つめの課題である都市や地域の再生では、人口減少下、中心市街地の活性化やコミュニティの再生、地方中核都市の機能の維持・向上と周辺集落とのネットワークの構築などが課題となっている。郊外へのスプロールを抑制し、よりコンパクトな都市を構築しつつ、市民の暮らしを支え、経済成長に資する地域の将来像を提示することが求められている。

地方が直面するこれらの多様な課題のうち、本特集では、3番めの「都市・地域の再生」に注目する。この課題は、拡大開発志向や中央集権など20世紀的な国土設計の基本理念を再考するという極めて大きな課題を視野に入れたものであるとともに、地域の自立や自治、持続的な地域経営とその担い手という「新しい公共」の概念にも触れるものである。また、生産や消費、就業、居住など、人々の多様な活動の場となる都市や地域に言及するものであり、他の諸問題に対し、極めて波及性が高い。すなわち、本特集は長期的視点からこの課題を取り上げることで、たとえ人口が減少しようとも、持続的に成長する新しいわが国の形を提言することを目指している。構成する各論文の概要を記せば以下の通りである。

「都市形成政策の抜本的見直し─人口減少に備えた国土利用の必要性」では、都市計画法や農地関連法制の抜本的見直しによる、地方都市形成のあるべき姿を論じる。人口減少にもかかわらず、地方都市では未だ都市の拡散・低密度化が止まっていない。その背景には、拡大開発志向のわが国都市形成の基本理念がある。本論文では、こうした基本理念を改め、地方都市における経済効率性や生活利便性を高め、それを梃に地域の成長に結び付ける都市のグランドデザインとその手法について示した。

「アメリカにおける大型店規制とわが国への示唆」では、土地利用規制権限を持つアメリカの自治体が行う多彩な規制を論じる。90年代半ば以降、環境や地域経済、アメニティ等の観点から規制強化が進められた背景には、大型店が雇用や税収を必ずしも商圏にもたらさず、市街地の空洞化や誘致のための補助金等のコストに見合わないとの認識がある。ただし、立地サイトの自治体に限れば税収増を期待できるため、商圏全体のメリットを度外視した誘致活動が跡を絶たない。商圏全体を視野に置いた出店調整が今後の課題であり、わが国でも取り組むべき課題といえる。

「規模縮小下でこそ求められる戦略的地域運営」では、グローバル化と規模縮小が同時進行するという環境下における地域運営のあり方を、EUを参考に論じる。住民以外に、全国チェーンやグローバルマネー等外部主体が地域の経営環境に頻繁かつ大幅な変化をもたらす現状、従来の総合計画策定、実行、改善というサイクルの有効性低下は明らかであり、不確定要素と錯綜する利害関係を織り込んだシナリオと柔軟な協働による地域経営が求められている。EU諸国、なかでもイタリアやスペインは、土地利用の現況図に、開発の経年変化と将来計画、インフラ整備状況、文化財・環境等の保護指定など多彩な地域情報を投影し、ひとつの「土地」に関わる、活動分野や目標を異にする主体間の調整と協働を促している。土地利用図をプラットフォームとする戦略的地域経営はわが国にとっても参考となろう。

「縮退社会における地域再生」では、人口減少等により縮退状況にある地域の再生に向けた、住民主導の取組みの必要性を論じる。経済衰退、コミュニティの崩壊、住民生活の悪化等複数の要因が絡む地域の課題に対処するには、従来の国主導、縦割り型ではないスキームが求められており、わが国に先行して縮退を経験した欧米社会の事例が参考となる。具体的には、実地経験の収集・分析に基づいた民間ベースの地域再生スキームの策定および、住民、企業、行政等多様な利害関係者のスキーム参画による包括的な課題解決が求められている。その際、住民の意識啓発・能力向上に向けた人材育成策の充実、規制や広域調整など行政以外は担うことの難しい役割に徹した自治体の関与が重要といえる。

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