Business & Economic Review 2009年7月号
【特集 世界経済危機と新たな金融システムの構築に向けて】
21世紀の金融規制当局の監督の在り方
2009年06月25日 コロンビア大学 経済学部教授 ジョゼフ・E・スティグリッツ
目次
- はじめに
- いくつかの一般原則
- スティグリッツ教授へのインタビュー
- 21世紀の規制
1.はじめに
21世紀の規制構造における原則、目的、手段について簡単に説明する。その前に、前置きとしてまず2点コメントしておきたい。第1は、金融規制改革は広範囲のコーポレートガバナンス改革から開始しなければならないということである。問題の一部は、近視眼的行動と過剰なリスクの引き受けを招いた、ストックオプションのフル活用を含む歪んだインセンティブ構造にある。私は、他の機会でどのようにストックオプションが、実際にわれわれが目にしてきた悪質な会計を誘引することになったかを説明している。つまりオフバランス化の動きである。議会はエンロンおよびワールドコム事件で露呈した問題に対処した際、ストックオプションの適切な情報開示について何もしなかった。われわれは、その間違いを是正する必要があり、加えてより広い意味で、なぜそれほどまでに多くの銀行が、役員以外のステークホルダーに不利なインセンティブ構造を採用したのかを聞いてみる必要がある。
第2には、自宅を失いつつある住宅保有者について、また、リセッションの深みにはまりつつある経済について、対処するという要求を改めて求めるということである。われわれは経済の通貨浸透説に依存してはいられない。すなわち、何兆ドルもの資金を金融市場に投入しても、米国経済を救うには十分ではないのである。必要なのは、さらなる悪化を食い止め、回復を開始させるためのパッケージである。現状は、体内で出血を起こしている患者に対して大量の輸血を行っているものの、止血する処置を何もしていないようなものである。
必要なのは、総合的な回復プログラムである。過去4年間に積み上がった膨大な債務に鑑みれば、出費にはそれに見合うだけの大きな価値がなければならない。すなわち、支出される1ドルすべてに経済を刺激する効果があると確信できなければならない。また最後に、支出は将来のビジョンと一致したものでなくてはならならず、今般の支出は、長きにわたって先延ばしされてきた、教育、科学技術、インフラへの投資を実施する機会と捉えるべきである。かかる支出をすれば、その経済的効果は将来の「環境技術」に転換され、米国の競争力は高まることになるだろう。短期的に経済を強化する一方で、同時に長期的な成長を促進することが可能である。