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Business & Economic Review 2009年5月号

【特集 人口減少下の都市・地域の再生】
アメリカにおける大型店規制とわが国への示唆

2009年04月25日 流通経済大学経済学部教授 原田英生


要約

  1. アメリカには規制がない、自由な市場で競争が行われているという考えは全くの誤りである。アメリカでは、州政府が多大の権限を持っており、ワシントンの連邦政府だけを見ていると、実態を見誤ることになる。

  2. 大型店出店に対して連邦政府はなんらの規制もしていないが、それは規制権限がないからであって、
    規制をしないという政策選択をした結果ではない。小売出店を含めて土地利用・開発に対する規制権限は、州政府に属する。しかし、その権限の大半が市町村等の地方政府に委譲されてしまっている。ただ、環境保護法等で州政府が開発規制を行っていることもある。たとえば、ヴァーモント州では、大型ショッピング・センターやウォルマートの出店が中心商店街にダメージを与え、結果として固定資産税の減収という経済環境の悪化を招くという理由で、環境保護を目的としたAct 250によって出店が不許可となったケースもある。他方、地方政府が行う規制は、ゾーニング法によるのが一般的である。あらゆる開発行為は外部性を有するから、負の外部性を最小化するように、ある敷地・建物の用途と建物の規模・配置等を規制する制度がゾーニングである。この規制は営業活動にも及ぶ。商店街における、業種別の店舗数を制限する業種別割当制、営業時間規制、酒販店やコンビニエンス・ストアに対する規制等を行っている地方政府もある。

  3. 1990年代末あたりから、こうしたゾーニングによる出店規制を強化する地方政府が増えている。代表的規制手法の1つは、リテール・サイズ・キャップ制といわれるもので、一定規模以上の小売店の出店を認めないという制度である。また、CIR(Community Impact Report)という、出店予定者に当該出店が既存店、雇用、税収、経済全般等に与える影響を事前調査させ、その結果から出店を認めるか、認める場合に条件を付けるかを決めるという手法を採用しているところもある。さらに、閉店・撤退に対する対応策を出店の条件としているところもある。

  4. このように大型店の出店に対する規制が強化されてきたのは、大型店が出店することで地元の雇用や税収が増加すると主張されてきたが、実態としては、小売業全体の雇用が減少し、税収も減る可能性がある一方、公的支出は増加するということが明らかになってきたためである。また、ウォルマートなどの出店は、その地域の貧困を促進し、社会関係資本を悪化させるということも明らかにされてきている。

  5. そのためにビッグボックス、スーパーストアの出店を規制する地方政府が増えているわけだが、他方では補助金等を提供して誘致する地方政府もある。これは、ビッグボックスなどの出店により雇用や税収の減少といった問題が発生するとしても、それは都市圏のような地域全体としての問題であり、その一部となる出店市町村だけで見れば、雇用や税収が増加する可能性があるからである。つまり、地域全体とその中の市町村との利害は一致していない。出店者は、それを利用して、隣接市町村を競争させ、もっとも有利なところへ出店するというケースも多い。分権制に起因する問題であるが、無前提に地方分権化は善であるとして推し進めているわが国としては、その轍を踏まないような仕組みをあらかじめセットする必要がある。また、欧米諸国と比して例を見ないほどに規制が緩いわが国の土地利用・開発規制について、実効性のある規制制度を構築していくことが求められる。
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