コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

Business & Economic Review 2009年4月号

【STUDIES】
会計利益の「質的差異」に関する実証分析-将来利益はアクルーアルズとキャッシュフローのどちらを反映するか

2009年03月25日 新美一正


要約

  1. 会計利益は、企業の営業活動から得られるキャッシュフロー(CFO)と、調整項目であるアクルーアルズ(会計発生高)からなる。具体的には、会計利益とCFOとの差額がアクルーアルズ総額である。

  2. 一般的な経営分析の文脈では、会計利益に対するCFOの比重が高いことを「利益の質」が高いことの状況証拠と考える。なぜなら、アクルーアルズは、一時的に価値認識期間をシフトさせる機能しか持たないからである。一時的な構成要素であるアクルーアルズの割合が高いほど、会計利益は時系列的な持続性に欠けると予想され、その意味において、アクルーアルズを多く含む利益は「利質が低い」と判断される。

  3. Sloan[1996][10]は1962年から91年までのアメリカ企業財務データを用いて、次期の会計利益に対するアクルーアルズとCFOそれぞれの持続性を調べ、両者間に有意な差(質的差異)が存在することを実証した。しかし、近年になって、次期会計利益に対するアクルーアルズとCFOとの持続性に関して統計的な差異を認めない実証研究が続々登場しつつある。それらの多くは、会計利益の質的差異の測定に関して、資産成長の影響をコントロールすべきであると主張している。

  4. 以上が本稿の基本的な問題意識である。本稿では既存研究の問題点を指摘したうえで、それを是正したリサーチ・デザインを展開。さらに、日本企業の財務データを適用して、会計利益の質的差異の存在に関して実証的な検討を行った。その際、2002年3月期から2007年3月期までの国内上場企業のバランスト・パネルデータおよび非バランスト・パネルデータを併用し、いわゆるサーヴァイヴァーシップ・バイアスの影響を最小限にとどめるよう工夫した。

  5. 本稿の推定結果を要約すれば、以下の3点になろう。

    (1)まず、従来の「質的差異」に関する実証研究においては、資産成長の影響を適切にコントロールできていないことに起因する「見せかけ」の部分が含まれている点が確認できた。

    (2)しかし、第4章で行った非バランスト・パネルデータに基づく追加的検証は、成長要因をコントロールしてもなお、会計利益における質的差異が、統計的に有意な形で存在することを明らかにした。非バランスト・パネルデータにおいて、新たにサンプルに追加された企業群には、業績不振により上場廃止となった企業や、IPO直後の新興企業が数多く含まれており、これらは、相対的にアーニングス・マネジメントへの誘因を強く持つ企業である。したがって、これらの企業群においては、アクルーアルズの裁量的操作によるアーニングス・マネジメントが盛んに行われていると解釈することが自然である。

    (3)さらに、会計利益の質的差異に関する検証結果は、推定モデルの選択や、サンプル・セレクションによってかなり大きな影響を受けることがわかった。実証研究成果から、何らかの政策的インプリケーションを引き出すためには、慎重なリサーチ・デザインに基づくさらなる研究成果の蓄積が不可欠である。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ