Business & Economic Review 2009年4月号
【STUDIES】
「利益平準化」は企業業績のシグナルを伝達するか-将来キャッシュフロー予測に関する実証分析
2009年03月25日 新美一正
要約
- 利益平準化行動は、代表的なアーニングス・マネジメントの一形態であると同時に、外部投資家に中長期的な収益力の成長をアナウンスする効果を持つ。利益平準化は、他のアーニングス・マネジメントのパターンと比較して、背景に多数の誘因を指摘できる点に特徴があり、それゆえに研究者の関心を引き付けてきた。
- 近年、国際的な会計基準の改定は、もっぱら財務報告における経営者の裁量余地を減じる方向性で進められており、アクルーアルズ(会計発生高=キャッシュフローから利益を計上するまで調整プロセスにおける、現金流出入を伴わない会計処理高の総称)を利用した利益平準化に対しても、真の会計数値からの乖離を問題視する傾向が色濃く見られた。しかし、過度に規制的な会計基準を強要することによって、利益平準化が持つシグナリング効果を阻害してしまうと、外部投資化との間で情報の非対称性を深刻化し、資本コストの上昇などのデメリットをもたらす懸念が強まる。
- 以上の問題意識に基づき、本稿では、利益平準化が企業業績に関するシグナリング効果を発揮しているか否かを、実際の財務データを用いて実証的に検討した。その結果、利益平準化は、それ単独では将来キャッシュフロー予測に対して有意な影響力を持たないが、キャッシュフロー水準やアクルーアルズ水準などの他の説明変数との相互作用を通じて、将来キャッシュフローに対し有意な説明力を伝達していることがわかった。
- また、利益平準化のシグナリング伝達ルートとして、先行研究が理論・実証の双方でその存在を検証してきた、裁量的なアクルーアルズ操作を通じるプロセスの他、事業活動そのものにおける裁量行動を通じるルート(実態的裁量行動)の存在を示唆する結果が得られたことは、もう一つの注目すべきファクト・ファインディングである。
- 実態的な裁量行動についてはこれまで実証的な分析成果が少なく、具体的な分析対象も、臨時・巨額な特別損益ないし非日常的な特異取引に偏る傾向があった。本稿の分析結果は、利益平準化行動を本来的な営業活動の成果である営業キャッシュフローの変動との関係で考察することの重要性を示唆している。