Business & Economic Review 2009年3月号
【STUDIES】
日韓のプライベート・バンキングの現状と課題
2009年02月25日 星貴子、ハナ金融経営研究所 主任研究員 鄭煕樹
要約
- 金融機関を取り巻く環境が一段と厳しさを増すなか、より安定した資金調達および収益の確保が期待できるとしてリテール金融が改めて見直されている。とりわけ、多額の資金調達や高収益が期待できるプライベート・バンキングへの関心が高まっている。市場としてとくに注目されているのが、富裕層が急増しているアジアである。アジアの国々のなかで、わが国や韓国では、まず1990年代後半からシティバンク(アメリカ)やHSBC(イギリス)といった欧米の金融機関がプライベート・バンキングを展開し、それを追うかたちで国内資本の金融機関が参入するなど、同業務への取り組みが本格化している。
- わが国におけるプライベート・バンキング業務をみると、欧米の大手金融グループのクロスセルによる総合資産運用管理を中心とする業務展開を基本的モデルとしているものの、銀行、信託銀行、証券会社といった業態ごとに、顧客基盤や提供する商品・サービス内容が異なっている。
これまで、プライベート・バンキングによるメリットを期待して大手金融機関のほか、地方銀行やネット証券会社などが相次いで参入しているものの、当該業務のみで収益をあげることは難しいのが現状である。 - 韓国では、大手都市銀行4行がプライベート・バンキング業務の牽引役となっている。これら大手都市銀行の業務内容をみると、個人資産運用管理を提供する一方で、結婚紹介サービスや美術品鑑定といった非金融サービスも行っている。非金融サービスは無料であるものの、顧客開拓のための他金融機関との差別化の手段として重点が置かれ、内容の拡充が図られている。
もっとも、富裕層の急増に伴い、信託手数料や販売手数料などの収益が堅調に伸びているとはいえ、当該サービスにかかるコスト負担は大きく、必ずしもプライベート・バンキング部門の収支バランスがとれているとはいえないのが実情である。 - 以上のように、日韓両国の金融機関ともに、プライベート・バンキングのもたらすメリットを必ずしも享受できていないのが現状である。そのうえ、欧米の金融機関に比べ、資産の運用力、商品開発力が劣位にあることは否めない。
さらに、欧米を中心に進んでいる昨今の業態や国境をまたがる金融機関の再編によって、日韓両国の金融機関にとっても一層競争環境が厳しくなる可能性がある。すなわち、業界再編により、日本や韓国においても、欧米の外資系金融機関が大きな顧客基盤を獲得する可能性も否定できないうえ、得意分野が異なる金融機関同士が合併することによって、商品力においても引き離される可能性もある。
そうした状況下、欧米大手金融グループに対抗して日韓双方の金融機関が国際的な競争のなかで生き残るためには、a.業務の多様化やb.ソリューション力の強化、すなわち顧客のニーズや資産状況を踏まえてコンサルティングし、それに基づいて顧客に合った金融商品・サービスを提供することが重要となる。
もっとも、金融機関の個々の経営努力のみならず、金融制度についても、実態を踏まえて更に見直しを進めることが必要である。折しも今般の世界的金融危機を踏まえて、規制強化を唱える言論も散見されるが、一律に規制強化に傾くべきではない。必要なことは、危機の実相を詳しく分析し、真に必要な制度を整備する一方で、利用者利便の観点から実態を踏まえた不断の規制の見直しを行い、金融サービスのレベル向上に繋げることであろう。