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Business & Economic Review 2009年3月号

【REPORT】
介護支援ビジネスの発展に向けた制度改革の視点-経営改善のインセンティブが強い報酬体系に

2009年02月25日 調査部 ビジネス戦略研究センター 研究員 小西功二


要約

  1. わが国の介護支援市場は、2000年4月の介護保険制度の運用開始とともに誕生し、その後、急成長を遂げた。しかしながら、事業所の経営実態をマクロデータでみる限り、訪問系介護ビジネスの採算性は低く、介護支援ビジネスは順調に成長しているとは言い難い。本稿では、訪問介護事業者の経営状態の検証にフォーカスをあて、保険制度の抱える問題点を抽出し、制度の持続性を確保するために採るべき政策について考える。

  2. 訪問介護ビジネスの収支構造を確認すると、特徴として以下3点を指摘できる。すなわち、a.保険外サービスの提供で収入を上乗せする事業所がほとんどない。保険適用サービスは公定価格であるため、事業所は薄利多売かコスト削減を志向している。b.支出に占める人件費の割合が大きく、介護職員の賃金がコスト削減の対象となり易い。c.支出に占める減価償却費の割合が小さい。投資負担が軽いため中小事業者が参入し易く、供給過剰となり易い。

  3. 以上の収支構造を踏まえて事業所の経営状況を確認すると、訪問介護ビジネス発展の条件は、a.安定需要が見込める立地、b.ホームヘルパー人員の確保、c.ホームヘルパーの稼働率向上の3点に整理できる。しかしながら、現状の事業環境は厳しい。すなわち、a.好条件を満たす特定地域に事業所が集中し、経営効率が低下している。b.サービス供給の担い手であるホームヘルパーの確保が難しく、損益分岐点を上回る事業量の確保は容易ではない。c.ホームヘルパーの稼働率向上は非正規雇用の最大限の活用で成り立っているが、非正規社員の賃金上昇が見込まれるなか、その持続性に疑問がもたれる。

  4. 上場大手企業の経営状況からは、採算性のバラツキと戦略の違いを確認できる。すなわち、a.成長性、収益性ともに良好な企業は、訪問系サービスよりも居住系サービスを重視している。b.訪問系サービスをメインに事業展開する企業では、成長に伴う収益性向上がみられない。c.各社とも、介護保険制度の改定を事業上のリスクとして認識している。こうしてみると、今後、大手各社が事業の重点を、収益性が低くリスクも高い訪問系サービスから通所系、居住系サービスへシフトすることも想定される。

  5. 以上の分析を総合すると、現行制度下での訪問系介護ビジネスの発展性は必ずしも高くない。在宅重視の保険制度を維持するためには、事業者間の競争を健全な形で促進する制度設計が望まれる。具体的には、a.加算報酬を厚くし、事業者の経営改善のインセンティブを強める、b.市町村による事業者監視機能を強化し、市場の健全性を維持する、c.急激かつ頻繁な制度変更を極力避け、市場の予見可能性を高める、ことが必要である。同時に、保険財政の安定化を図ることも重要な課題であり、「負担増加」または「給付抑制」について、国民レベルでの議論が求められる。
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