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Business & Economic Review 2009年02月号

【特集 低炭素社会の実現にどう取り組むべきか】
低炭素社会への道

2009年01月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ


要約

  1. 地球温暖化対策への取り組みが人類共通の課題であるという認識は、いまや世界が共有している。温室効果ガスの長期的な排出削減幅については現在、「2050年までに半減」が世界のコンセンサスとなりつつある。その一方で、温暖化対策への国際的な取り組みの中心となっている京都議定書と「2050年までに半減」との間にはきわめて大きなギャップがある。京都議定書で設定された全体の削減目標は5%に過ぎないうえ、途上国に削減義務が課されておらず、世界全体の排出量を削減するという観点からは実効性が必ずしも高くない。京都議定書はあくまでもスタート台であると捉えるべきであり、今後、本格的な削減に向けて世界各国がさらに協調して取り組んでいくことが求められる。

  2. 温室効果ガスの排出削減方法は、技術および政策の二つの観点から捉えることができる。まず技術面からは、a.活動量を減らす、b.エネルギー効率を高め、単位当たりエネルギー使用量を削減する、c.炭素含有量の相対的に少ないエネルギー源に転換する、の三つの方法がある。既存技術の利用・拡大を図るほか、二酸化炭素回収・貯留(CCS)、宇宙太陽光利用システムといった新たな技術を開発し普及させることで実現できる。

  3. 排出削減のためのさまざまな技術的方法を実施に移す橋渡しをするのが政策である。とりわけ、大規模な技術投資は公的セクターのみで行いきれず、民間の関与が不可欠である。そのためには民間が投資を行い、排出削減を実現することで何らかのメリットを得られる、あるいはデメリットを回避できる仕組みが必要となる。

    政策の観点からみた排出削減の方法には、a.どの主体を対象とするか、b.どのような手法を適用するか、という二つの切り口がある。対象となる主体と適用する手法の組み合わせ方によってさまざまなバリエーションがある。抜本的な排出削減を実現するためには、多岐にわたる政策のなかから最善のポリシーミックスを構築していく必要がある。

  4. 京都議定書の目標達成に向けたわが国の取り組みとして、これまでの日本経団連による自主行動計画に、今般新たに自主参加型のキャップ&トレードである「排出量取引の国内統合市場の試行的実施」が加わった。もっとも、抜本的な排出削減を実現するためには、以下の3点が必要である。

    第1に、技術に対する全方位の支援体制である。排出削減を飛躍的に進める鍵を握るのは技術であり、革新的技術の開発および普及が極めて重要となる。新技術の実用化を促進するために税制、認可体制、評価システムなどからの支援が重要であると判断される。一方、資金面では民間からの支援も必要であり、エコファンドの活用が考えられる。
    第2に、国民の意識変革である。そのためには国民への啓蒙活動やCO2排出量の可視化に加えて、削減に向けたインセンティブが必要であり、炭素税が一つの候補となろう。さらに、各個人に排出枠を設定し、それを下回った場合にメリットを受けられる制度を導入するのはどうか。国民の意識が変われば、消費者として、あるいはステークホルダーとして企業に圧力をかけることで企業部門の排出削減にも大きく資するであろう。
    第3に、企業による排出削減努力の継続である。国として低炭素社会の実現に本腰を入れて取り組まざるを得ない以上、企業部門に対して強制力のある排出削減政策を早晩導入せざるを得ないと予想される。こうしたなか、企業の温暖化対策は小さな省エネを積み上げていくボトムアップのアプローチにとどまらず、収益拡大策、競争力強化策としてどのように戦略的に取り入れていくかを考えるトップダウンのアプローチが重要となる。その点を踏まえると、温暖化対策は社内の一セクションに任せるにしてはあまりに大きな問題であり、経営戦略の一つの柱と位置付けるのが妥当と判断される。

  5. なお、企業の温暖化対策の現状について、環境省および弊社が実施しているアンケート調査結果をみると、まず「企業の社会的な責任」として環境問題に取り組むべきとの意識は多くの企業に浸透しているものの、経営計画に明確な対応方針を盛り込んでいる企業は決して多くない。また、上場・非上場間、あるいは製造業・非製造業など業種間で意識や取り組みに差が大きい。総じてみれば、低炭素社会の構築に向けた企業の取り組みは緒に就いたばかりと言えよう。
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