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Business & Economic Review 2009年2月号

【STUDIES】
わが国における環境保険ビジネスの現状

2009年01月25日 星貴子


要約

  1. 1990年代以降、温暖化防止や環境保全など環境問題の地球規模の広がりを背景にした法規制の強化や企業の社会的責任(CSR)追及の強まりを受け、企業が環境汚染に伴う賠償費用や損失など金銭的負担を抱える可能性、いわゆる環境リスクが一段と高まっている。そうしたなか、欧米、とりわけ、アメリカにおいて環境リスクの引き受けに特化した環境保険に対する需要が増大するとともに、保険商品としての多様化が進展している。
    環境保険とは、ⅰ)土壌や河川などの環境汚染に起因した住民の健康被害や事業損害に対する賠償責任、ⅱ)汚染浄化費用の負担、ⅲ)保有する資産価値の下落、ⅳ)社会的信頼の低下・喪失による収益の減少など、環境汚染によって企業自らが被る金銭的損失を補償する保険のことである。

  2. アメリカで提供されている環境保険をみると、被保険者の抱える環境リスクの特性に合わせて、補償の範囲や保険金額および保障期間などの補償内容が設定されている。カスタマイズ商品が主流ではあるものの、近年、企業のニーズに合わせパッケージ商品が多様化している。第三者に対する損害賠償費用や汚染浄化費用に対する補償に加え、汚染浄化費用の超過分や汚染を発生させた当事者である企業の事業損失に対する補償のほか、その企業の信用保証を提供する商品がある。そのうえ、業種別にその業種独自のリスク応じた補償内容を設定した商品もでている。
    そもそも、環境リスクに対する保険は、自動車保険や火災保険と異なり、環境汚染の発生頻度や規模が予測不能であるため、商品化が難しいとされている。それにもかかわらず、アメリカにおいて、環境保険が発展した背景としては、環境保険に内在する課題の解決に向けた保険会社の取り組みを挙げることができる。

    主な取り組みとしては、アンダーライティング技術、すなわち保険の購入希望者のリスクを評価し、それに基づき予想被害額および保険料を設定するプロセスに関する技術の向上が挙げられる。具体的な方法としては、汚染事故などの情報を基に汚染事故発生頻度や被害規模などを分析し適正な保険料水準を設定するアクチュアリーの精度を向上させるとともに、汚染調査の実施により被保険者のリスクを特定し補償の範囲を限定、あるいは契約の可否を判断するといった方法である。こうした方法によって、保険の市場性を高めるとともに企業のモラルハザードの抑制を図っている。

    さらに、アンダーライティング技術の向上は保険会社の引受リスクの低減にも役立っている。すなわち、被保険者の環境リスクに関する判定の精度が上がり、それに応じた保険商品の提供が可能となり、徴収した保険料を上回る保険金額を支払うケースが減少したことによって、保険会社としての引受リスクが低減された。

  3. これに対して、わが国では、これまでのところ、環境保険に対する需要は小さく、環境保険を提供している損害保険会社数および保険商品の種類は少ない。しかしながら、今後を展望すると、不動産の利活用の進展や環境保全に対する意識の強まりを背景に企業の環境リスクがこれまで以上に高まり、企業の財務能力を大きく上回る賠償額が求められるケースが増えると予想される。こうした経済的なリスクに対するため、すなわち、企業のリスクファイナンス手段として、環境保険に対する需要が拡大する余地は大きいと考えられる。

    もっとも、前述のとおり、環境保険をビジネス化するには、商品化の条件である保険の可能性と市場性の充足、および保険会社の引受リスクの低減が不可欠である。

    このような課題に対して、アメリカの保険会社は、主にアンダーライティング技術を向上させることで対応してきた。その結果、環境リスクに見合った適切な保険料や補償の範囲が設定され、保険料と支払い保険金額のバランスが図られるとともに、チューリッヒ社が引き受けた損害保険の再保険率を5年間で3分の2にまで低下させたように、保険会社の引受リスクを低減させることが可能となった。

    こうしてみると、アメリカの保険会社の取り組みは、わが国の損害保険会社が環境保険ビジネスを展開するに当たって大いに参考となると考えられる。
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