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Business & Economic Review 2008年12月号

【STUDIES】
純粋持株会社の経営分析-収益源と収益管理に関する実態の検討を中心に

2008年11月25日 新美一正


要約

  1. 1997年12月にわが国では純粋持株会社の設立が戦後初めて解禁された。当初、純粋持株会社制へ移行するケースはもっぱら金融機関に限定され、一般事業会社では例外的だったが、2003年頃から持株会社制度を採用する企業が増え始め、現時点では100社を超える上場企業が純粋持株会社制度への移行を完了している。持株会社制度は今や、企業グループの組織化に関する選択肢の一つとして完全に定着してきたといえる。

  2. 純粋持株会社制度は、グループ経営における経営者主権の確立・強化を通じて、グループ全体の価値増大のドライヴァーとなる可能性を秘める。半面、持株会社制度の下では、従来の事業部制では顕在化しなかった、グループ内におけるヒト・モノ・カネの配分に関する問題点が新たな経営課題として浮上することになる。

  3. 持株会社制度のもとで、効率的にカネの流れをコントロールするために提案された、グループ内での統一的な資金管理手法がCMS(cash management system)であり、一方、残るヒトとモノの配分に関する問題の解決ツールとして、近年注目されているのが、人事・経理・購買等の間接部分の集約・統一処理を司るグループ内組織であるSSC(shared service center)である。SSCとCMSとは独立して存在するわけではなく、グループ経営における一体管理という枠組みのなかで、前者は「ヒト」および「モノ」の流れを、後者はその裏側にある「カネ」の流れを取り扱うという意味で、相互に補完的な関係にある。

  4. 一般的な財務分析においては、企業グループ全体の業績を反映する連結財務諸表に焦点があてられ、持株会社自体の業績に対して分析のメスが入れられることはまれであった。しかし、純粋持株会社は通常、グループ内の唯一の上場企業であり、グループ全体の業績が好調であっても、純粋持株会社の個別決算が赤字になるケースもみられること、純粋持株会社制度のもとでは、トップ・マネジメントの戦略評価が重要になり、それは持株会社自体の業績評価と比較結び付いていること、純粋持株会社のグループ全体における実質的なポーションは、役職員数や純利益などの比率以上に大きいとみることが自然であることなどから、純粋持株会社単独の業績についても、グループ全体の価値向上を考えるうえで重要な情報を含んでいると考えるべきである。

  5. 純粋持株会社自体におけるグループ・マネジメントの評価に関しては、収益の源泉としての収益管理と収益源泉ごとの収益レベルの決定という二つの分析視点を設定できる。本稿では、この2視点から、上場純粋持株会社74社の財務諸表データ(2006年度)に基づき、持株会社における業績管理の実態を検討した。結果のうち、とくに注目されるのは、子会社支配力を持つ純粋持株会社といえども、自らの利益水準を完全には操作できる訳ではなく、全体の約15%の企業が赤字(純損失)を計上していたこと、持株会社移行後も、株主からの安定配当圧力に押される形で、かなり高い総収入純利益率を確保しつつ、稼得した利益の大部分を内部留保するという、非常に保守的な利益金処分が支配的だったこと、の2点である。以上の結果は、通説とは異なり、純粋持株会社自体に対する古典的な収益性指標を用いた経営分析が、グループ全体の価値向上を考えるうえで有用な情報を提供できることを示唆する。
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