要約
- 公的金融改革の近年の大きな流れをみると、高度成長期には機能していたが、その終焉とともに政策目的が薄れつつあった政策金融分野を中心に、政府部門によるプレイヤーとしての役割(経済的関与)を縮小し、かつ財政投融資の規模を縮小することによって財政的関与を抑制する方向に変化してきた。こうした検討は、2001年の財政投融資改革に基づく資金の流れの分断によって可能になった。
また、組織という観点からこれらの変化を概観すると、最終的に、2000年段階で存在していた従来型の特殊法人はすべて姿を消し、民営化、廃止、新しい会社法に基づく特殊会社、独立行政法人という形態に変化している。ガバナンスの観点からは課題が多いと指摘されていた独立行政法人に関して、
通則法の改正により改善が図られる方向にある。更に、2001年以降、各省庁が自ら政策を評価する仕組みである政策評価制度が導入されたほか、また財政投融資については政策コスト分析手法も導入された。会計原則の整備や情報開示の充実などにより、パブリック・ガバナンスのインフラストラクチャーも充実してきている。 - 2008年10月に誕生した日本政策金融公庫は、株式会社形態の組織となり、かつて八つの特殊法人が担っていた政策金融は、民間金融の補完という役割が明確に位置付けられた。そのうえで「a.中小零細企業・個人の資金調達支援、b.国策上重要な海外資源確保、国際競争力確保に不可欠な金融、c.円借款であり、それ以外からは撤退する」(平成17年12月24日「行政改革の重要方」)とされ、これに基づいた業務限定がなされた。さらに、危機時においては別途民間金融機関と協調する形で危機対応の仕組みが整備されることとなった。融資業務については、外部性、情報の非対称性、不完全競争、市場の欠落、危機管理といった市場の失敗に限る形で政策目的が限定された。
- 日本政策金融公庫は、監督官庁による予算統制を受け、会社法に基づく株式会社として運営されることになる。重要なことは、政策目的を的確に実施しつつ効率的な業務運営を行うことであり、経営陣が国民からの付託を受けた組織としてのミッションを的確に捉え、その責任を果たすとともに、取締役会、内部の監査(監査役会)、外部監査、に加えて外部識者による評価委員会などが、国民の目線に立って執行部を監督していくことが期待される。とくに、政策目的の遂行(業務の的確な執行と民業補完)の検証、リスク管理の徹底、コンプライアンス体制の検証などが重要である。
- 今後の政策評価について、これを担う各省と日本政策金融公庫自身が、必要性や有効性等の視点から忠実に行い、その評価結果が、実際の業務執行にあたっての規律付け、また予算に反映されるような実効性を伴うものとなる必要がある。とくに、a.政策目的の妥当性についてのきめ細かい評価、b.費用便益分析におけるベネフィットの検討(ベネフィットとしての指標の選択や計量分析)、などが課題である。
- リスク管理も一つの重要な課題である。今後は、融資先のリスクプレミアムを把握してプライシングに反映させると同時に、政策的な特別利率の水準が、民業を圧迫したり、日本政策金融公庫の財務の健全性を損なうことにより過度な国民負担を招きかねないような低い水準(すなわち過度な補助率)に設定されないよう、検証を深める必要がある。また、組織全体としておよそどの程度のリスクを抱えているかを統合的に把握、管理、開示し、市場の評価を改善すると同時に、国民に対する説明責任を果たす必要がある。
- 今後日本政策金融公庫の一つの勘定となる信用補完制度については、近年、民間金融機関との責任共有制度の導入リスクに応じた保険料の導入など、以前から指摘されていた問題点を解決していく方向に制度改正がなされてきたが、セーフティネット保証などの活用が多く、赤字基調にある。今後、日本政策金融公庫として、十分な役割を果たしつつ、どのように財務の健全性を維持していくか、という観点から考えると、a.信用保証協会に対する国による包括保険契約のてん保率の水準、b.新設される危機対応制度のリスク負担割合との整合性など、制度上検討すべき課題も残っている。
- 金融市場は、経営資源の効率的配分を実現する重要なインフラである。本来向かうべき民間の有望なプロジェクトに対して、適切にリスクが評価されたうえでプライシングが行われ、資金が回っていく仕組みが築かれることが必要であり、そのためには民間金融機関にも課題がある。現在、経済情勢は悪化しており、中小企業向けを中心に政策金融に大きな期待が寄せられている。日本政策金融公庫はこうした要請に応えてその機能を発揮させていくとともに、実効的な政策評価、適切なプライシングやリスク管理など課せられている様々な課題について対応していく必要がある。