Business & Economic Review 2008年10月号
【STUDIES】
企業・事業所の立地状況の変化と地域経済・地方財政への影響
2008年09月25日 吉本澄司
要約
- 複数の事業所を持つ企業の本社所在地の分布をみると、東京、大阪、愛知、神奈川などが上位を占めている。時系列変化では、東京、大阪、神奈川が低下し、愛知、福岡が上昇している。
- 他の都道府県への支社展開をみると、北海道や神奈川など1道7県に本社を置く企業では東京、また京都、兵庫など4県の企業では大阪への支社配置が最も多い。東京、大阪以外で支社配置先第1位となっている県は福岡、愛知、宮城などである。一方、地元企業以外の支社ではどこに本社がある企業の存在が目立つかをみると、大阪、愛知など36道府県では東京の企業、東京、京都など6都府県では大阪の企業が設置した支社が最も多い。
- 支店経済という言い方が必ずしも積極的評価として使われないように、支社の存在は過小評価されがちであるが、複数の事業所を持つ企業をみると、1986年には全体の36.5%を占めていた本社従業者の構成比が2006年には27.8%に低下し、替わって本社所在地以外の都道府県の支社に勤務する従業者が38.1%を占めるようになった。
- 宮城、茨城、栃木、埼玉、神奈川、三重、滋賀の7県は、他の都道府県に本社のある企業が設けた支社に勤務する従業者が、県内の全就業者数を基準とした相対比で20%以上となっており、県外の企業による支社の設置が県内の労働需要に貢献している。
- 全就業者数との対比でみて、複数事業所企業の本社従業者が高い比率を示すのは東京である。東京に比べると低いが、大阪、愛知など12府県も、全都道府県の中では本社従業者の比率が高い方である。
東京都は、都内に存在する本社が都内、都外の支社に提供した本社サービスの生産額を約29.3兆円と推計している。大阪府は東京都のおおよそ3、4割程度とみられる。 - 企業の本社、支社は、生産活動や雇用を通じて地域の経済活動に寄与しているほか、国や地方自治体にとって重要な納税者となっている。本社、支社が多く立地している地域では、企業の納税だけでなく従業者の個人住民税や従業者の住居に対する固定資産税も押し上げられる。
- 企業が納める税のうち国税の法人税は、本社所在地で納税することになっているため、納税地の分布は企業数の構成比では約1%ながら法人税額の約7割を納めている大企業の本社の分布に近く、東京、大阪、愛知で約3分の2を占めている。ただし、国税であるため、納税地にそのまま税収が回るわけではない。
- 一方、企業関連の地方税には法人事業税、法人住民税、固定資産税、都市計画税、事業所税などがあり、税額には本社だけでなく支社の存在も反映されるため、地方自治体にとっては本社が存在しなくても支社が立地していれば税収を期待できる。
- 法人事業税は一部の都道府県に偏在していると指摘されることが多いが、事業所が複数の都道府県に存在する場合には課税標準が分割され、分割後の課税標準に応じて税額が決められるため、法人税の納税地の偏りに比べれば、上位集中度は緩やかである。分割が行われた後の法人事業税がなお「偏在」しているか否かについては議論が分かれるが、財政力格差に早期に対応することが喫緊の政治課題になっていることから、税体系の抜本的な改革が行われるまでの暫定措置として、法人事業税(地方税)の一部が地方法人特別税(国税)に分離され、地方法人特別税の税収を地方法人特別譲与税として都道府県に譲与する制度が設けられた。
- 企業の本社、支社が数多く立地している地域にとって、企業は生産や雇用の増加をもたらすだけでなく、税収の増加によって地方財政の改善にも貢献を期待される存在である。このため、多くの地方自治体で、税の軽減などによって企業進出を促そうとする試みが行われている。しかし、その一方で、企業の本社、支社が数多く存在していることに着目して税の増収をはかろうとしている場合もある。
地方自治体の課税自主権尊重については、地方分権を推進するため、地方の歳出規模と地方税収との乖離の縮小、住民の受益と負担の対応関係の明確化などの観点から地方税源を充実させる必要があるという考えから進められてきたが、実際には住民の受益と負担の対応関係の明確化というより、住民(個人)に負担感を生じさせないように、取りやすい所から取る形となり、選挙権を持たない企業に課税される傾向がある。自主課税の実施に当たって企業に偏った増税策の採用は控えるべきだろう。