Business & Economic Review 2008年10月号
【STUDIES】
連結財務諸表におけるセグメント情報の意義と重要性-セグメント識別基準の国際的コンヴァージェンスを手がかりとして
2008年09月25日 新美一正
要約
- 子会社数の趨勢的な増加が示すように、連結企業グループの規模的な拡大が続いており、グループ経営の実態を正しく把握するためには、セグメント情報開示の充実が不可欠になっている。しかし、これまで、内外の企業は必ずしもセグメント情報開示に積極的な姿勢を示してこなかった。
- 1997年6月にFASB(アメリカ財務会計基準審議会)は、セグメント情報開示の充実を主な目的として、新しい連結会計基準SFAS第131号を公表した。この新基準は、セグメンテーションのアプローチとして、従来のSFAS第14号が採用した産業セグメント・アプローチに代わり、マネジメント・アプローチを全面的に採用するものであった。国際的な会計基準のコンヴァージェンスに向けた動きの中で、IASB(国際会計基準審議会)は2006年11月に、このSFAS第131号をほぼ丸飲みする形でIFRS第8号「オペレーティング・セグメント」を公表し、セグメント情報開示における区分識別基準はマネジメント・アプローチに統一される方向性が固まった。こうした国際的潮流を受け、わが国においても、来る2011年3月期より、マネジメント・アプローチに基づくセグメント情報開示が開始される予定になっている。
- マネジメント・アプローチでは、まず、基本的なセグメント単位であるオペレーティング・セグメントを、企業内部の経営組織構造により規定する。セグメント報告を、企業内部で行われる経営管理活動とリンクさせることによって、情報作成コストを引き下げると同時に、経営者が恣意的にセグメント情報をコントロールする余地を狭めさせる点が、マネジメント・アプローチ採用の利点であり、これにより開示されるセグメント情報の質・量両面での充実が期待できる。
- 職能別組織形態を採用している企業が多いわが国の場合、管理会計システム自体が未成熟な企業も少なくないと想像され、会計基準変更に伴い、短期的な対応に苦慮する企業が出現する可能性が高い。
もちろん、長期的にみれば、この制度改正が、企業における管理会計システムの改善・一段の飛躍に向けた起爆剤として機能する可能性もある。 - 財務会計の立場からは、会計基準変更に伴い、どの程度まで充実したセグメント情報開示が行われるかが問題の焦点である。わが国においても、すでにマネジメント・アプローチにより、詳細なセグメント情報開示に踏み切る企業が現れており、これら企業においては、開示情報に基づくセグメント別の精緻な事業価値評価や、セグメント別財政状況の正確な把握が可能になっている。現実のセグメント情報開示を大枠規定する連結規則および同規則様式が、セグメント情報開示の充実を図るという、今回の会計基準変更の精神を十分に尊重する方向で設定されていくことを期待したい。