Business & Economic Review 2008年08月号
【SPECIAL REPORT】
一次産品価格の行方と世界経済への影響
2008年07月25日 藤井英彦
要約
- 一次産品価格の上昇に歯止め掛からず。一次産品価格は2000年代初頭まで安定して推移した後、2004年以降、急速に上昇。安定期と上昇期を対比すると、価格変動のバラツキは安定期の方がより大。加えて、近年の価格上昇は分野を問わず、ほぼ同様のペースで進行。品目ごとの事情に加え、一次産品をめぐる情勢変化が窺われる展開。
- 価格上昇には個別品目毎に様々な要因。しかし、いずれも2002年以降の価格上昇に対する説明力は脆弱。一次産品全体の情勢変化の観点から要点を吟味すれば次の通り。
a.経済成長。もっとも途上国の成長は昨年来鈍化。直近の価格上昇速度加速と矛盾。
b.所得増加。もっとも穀物市況の上昇が加速した2007年には所得増勢が鈍化。齟齬。
c.過剰流動性増大。もっとも米通貨供給量は2005年まで増勢鈍化。説明力不足。
d.ドル安。ドル安は、実質的な手取り減少に直結して供給者の価格引き上げ意欲を増幅するうえ、投資家の投資マインドを刺激する筋合い。現実に両者はほぼ連動して推移。加えて、一次産品はドル建て。一次産品価格の上昇にドル安が作用してきたならば、ドル安影響を除くと価格水準はほぼ安定する筋合い。金建てで一次産品価格をみると、ほぼ安定して推移。 - このようにみると、一次産品価格の上昇はドル安の反射効。先行きはアメリカ経済が重大な鍵。そこで、アメリカ経済を展望すると、当面先行き不透明感が根強く、低空飛行が持続する公算が大きく、当面、一次産品価格の上昇が頓挫する展開は期待薄。
- 今後の一次産品価格を、ドル安進行をケース分けして展望。すなわち、a.住宅バブルで高成長した局面の緩やかなドル安、b.今回のドル安が始まった2002.2004年のドル安、c.サブプライム問題以降の急速なドル安、の3ケースに分けて、今後1年間の一次産品価格上昇率を試算。ケースa.が2%、ケースb.が5%、ケースc.が10%、の結果。
- 一次産品価格の上昇に伴う影響は国ごとにまちまち。まず資源国では大幅な所得流入。経済実態を上回る購買力の増加が実需の増加に加え、資産価格の上昇にも作用し、インフレ圧力を増大。それに対して、消費国では大幅な所得が流出しデフレ圧力が増大。資産価格下落に作用する懸念も。次いで二次的影響が工業製品貿易の増大。資源国では機械類や金属製品の輸入増。受け皿となり輸出増加が見込まれる国は日独など。
- 今後を展望しても、一次産品価格の上昇傾向は当面持続の見通し。現下の世界経済を俯瞰してみれば、とりわけ19世紀から20世紀に深刻化した南北問題、すなわち上昇する工業製品価格と低迷する一次産品価格によって進行した南から北への所得移転と正反対の動き。いわば、新たな21世紀型の南北構造が顕在化。