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Business & Economic Review 2008年08月号

【FORECAST】
2008~2009年度わが国経済の展望-資源価格の高騰で内需下振れ

2008年07月25日 調査部 マクロ経済研究センター


要約

  1. わが国経済は、内需は回復感に乏しい状態が続いているものの、外需主導による成長が持続。もっとも、足元の経済指標は景気減速を示す内容のものが大半であり、実質成長率が示すほどの「堅調さ」は実感できないのが実状。今後を展望しても、a.サブプライム問題の長期化による世界経済の減速、b.資源価格の高騰とその影響、が懸念されており、景気の下振れリスクが強まっている状況。

  2. まず、海外経済を展望すると、欧米では、サブプライム問題の長期化や資源価格の高騰による物価上昇などを背景に、景気低迷が長期化する見通し。とりわけアメリカでは、下振れリスクの大きい状況が続く公算。一方、新興国では、固定資本投資などの内需に牽引されて、基本的に高めの成長が持続する見通し。わが国輸出も、新興国・資源国向けに支えられて、ペースは鈍化しながらも増勢を持続する見込み。

  3. 次に、資源価格を展望すると、新興国などでの需要増、供給制約、投機資金の流入といった要因に加え、アメリカ経済の先行き不透明感を背景とするドル安の進行も予想されることから、今後も上昇傾向をたどる見通し。これが、わが国経済に与える影響を整理すると、以下の通り。

    イ)マクロ的な影響
    資源価格が上昇すると、輸入支払額の増加を通じて、国内から資源国への所得移転が発生。2008年度の所得流出額を試算すると、17兆円に達する見込み。この結果、貿易収支の黒字は急速に縮小し、2010年入り後に赤字に転落する可能性。また、最終製品・サービス価格への転嫁が困難なため、GDPデフレーターの下落幅も一段と拡大。

    ロ)企業部門への影響
    売上高の伸びが鈍化するなか、原材料コストの増大により、経常利益の減少幅が拡大。キャッシュフローの減少が設備投資の下振れ圧力を高めるほか、利益率の急低下により中小企業の倒産件数が増加。

    ハ)消費者物価への影響
    消費者物価(除く生鮮食品)は上昇ペースがさらに拡大し、2008年度は+1.6%に。企業のコスト吸収が限界に達しつつあるなかで、ガソリン・光熱費だけでなく、食料品などにも値上げの動きが広がる見込み。もっとも、企業収益の悪化により賃金抑制圧力が強まるため、賃金と相乗的にインフレが加速していく懸念は小。

    ニ)個人消費への影響
    企業収益に下振れ圧力が強まるなか、ボーナスを中心に人件費抑制の動きが強まる見通し。また、物価上昇によって2008年度には4.3兆円の負担増。この結果、家計の購買力は1%以上低下する見通し。とりわけ低所得世帯や地方の世帯へのマイナス影響が大。

  4. 以上を踏まえ、2008年度のわが国経済を展望すると、a.輸出の増勢鈍化、b.資源価格の高騰による企業収益圧迫、などを背景に、調整色が強まる展開。もっとも、資源国・新興国向け輸出が堅調を維持するため、景気後退局面入りは回避。2009年度入り後も、企業収益の減少が続くなか、設備投資が押し下げられるほか、雇用者所得の抑制、物価上昇による家計負担増も残るため、内需を中心に景気回復ペースはさらに鈍化する見通し。

    また、GDPデフレーターの下落幅は一段と拡大し、名目成長率はほぼゼロにとどまる公算。「実感景気」は一段と厳しさを増す見通し。

  5. 当面のわが国経済は、「生産→所得→支出」という景気循環メカニズムにおいて、出発点の「生産」は外需の下支えにより堅調ながら、次の段階の「所得」が資源価格の高騰により大きく下振れる構図。いわば「繁盛貧乏」の様相。足元の所得流出の規模は、a.石油ショック時を上回っていること、b.高い資源輸入依存度を背景に他国を大きく上回っていること、という点を勘案すれば、今後のわが国経済を展望するうえでは、資源価格の動向が最大のポイント。
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