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Business & Economic Review 2008年05月号

【REPORT】
リバースモーゲージの事業化促進に向けた課題

2008年04月25日 星貴子


要約

  1. 近年、わが国の高齢者世帯では恒常的な日常生活費の不足に加え、入院や介護施設入居・在宅介護といった不測の事態に対する備えを確保することが困難なケースも少なくない。もっとも、高齢者世帯の約8割は住宅を所有していることから、多くの場合、リバースモーゲージの利用によって、そのような経済的な困難を解消することが可能である。今後を展望しても、老後資金不足が懸念される高齢者は一段と増加すると見込まれ、リバースモーゲージの必要性は、低所得層のみならず、下位中間層など保有金融資産の少ない世帯を中心に高まる公算が大きい。しかしながら、今日のわが国におけるリバースモーゲージの普及度合いをみると、国や一部の地方自治体のほか、少数の金融機関によって提供されているにすぎない。サービス内容は限定的なうえ、サービスの提供対象者も都市部居住者や高額の住宅資産保有者などにとどまっている。

  2. 翻って、リバースモーゲージの先進国であるアメリカをみると、1980年代までは、長生きリスク、金利上昇リスク、評価額下落リスクといった特有のリスクを十分にコントロールする体制が整備されていなかったため、リバースモーゲージは事業として普及せず、高齢者が必ずしも広く利用できる状況ではなかった。こうした状況を打開するため、連邦政府は、民間金融機関がサービスを提供する一方、住宅都市開発省を中心とする政府関連機関が一元的にリバースモーゲージ特有のリスクをマネジメントしサービス提供企業をサポートするといった官民連携のシステムを整備した。同システムでは政府関連機関のもとにリバースモーゲージ債権を集約し一定規模以上にしたうえで、政府関連機関が特有のリスクを全面的に引き受ける。このため、個々の貸出機関がそうしたリスクに対する管理にかかわるコストを節減できるうえにそれらのリスクをほぼすべて回避できることから、民間サイドでも積極的に利用者の拡大が図られた。こうした取り組みを経て、アメリカのリバースモーゲージ市場は着実に拡大した。

  3. わが国では、老後資金に不安を抱える高齢者の増加に伴いリバースモーゲージの必要性がこれまで以上に高まると見込まれるなか、その普及は喫緊の課題であり、事業化の阻害要因となっている特有のリスクをマネジメントする体制を早急に整備する必要がある。そうしてみると、アメリカにおける取り組みは、現在住宅市場が変調を来していることから今後システムが見直される可能性があるものの、いまだリバースモーゲージ市場が同国の100分の1程度にすぎないわが国にとって大きな示唆になろう。具体的には、2002年12月にスタートした厚生労働省の長期生活支援資金制度を基に、サービス提供者として民間金融機関を取り込むとともに、政府機関のもとにそれらの債権を集約して一元的にリバースモーゲージ特有のリスクをマネジメントすることが有効と思われる。もっとも、少子高齢化の進展を背景に住宅市場の伸び悩みから不動産価格が低迷する可能性は否めず、定期的に評価額を見直すといったこれまでの手法も継続すべきである。
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