Business & Economic Review 2008年04月号
【STUDIES】
コーポレート・ブランド価値と資本市場
2008年03月25日 新美一正
要約
- コーポレート・ブランド価値とは、現行会計基準における「資産」ではないが、明らかにその企業の将来キャッシュフローを増加させるという意味では実質的な資産性を持つ無形知的財産である。確立されたブランドによるキャッシュフロー増大効果は、商品ブランド経路経由はもちろん、企業組織の求心力向上や、安定的な雇用状況の維持などの副次的な経路からも発揮される。このため、ブランドはしばしば、企業にとっての競争優位の源泉とみなされている。
- ブランド資産を論じるうえでの一つの大きな問題点は、その資産的価値の客観的な評価が難しいことである。ブランド資産のオンバランス化や、ブランド情報の開示を進めるためには、客観性を備えたブランド価値評価モデルの構築が必要である。本稿では、経済産業省のブランド価値評価研究会が提案した会計数値に基づくブランド価値評価モデルと、一橋大学の伊藤邦雄教授が中心となって開発したCBバリュエーターの2種類の評価モデルを取り上げ、その価値関連性―推定されたブランド価値と株価形成との統計的な関係性―を実証的に検討した。
- CBバリュエーターにより評価されたブランド価値は、株価形成において利益などの公開済み会計情報に対して追加的な情報価値を持っていることがわかった。一方、経産省モデルによるブランド価値には、こうした追加的な情報効果がみられない。経産省モデルは公表された会計数値のみに基づく定量評価モデルであり、CBバリュエーターは、会計数値以外の定性情報を加味した評価モデルである。本稿の分析は、資本市場で評価されているコーポレート・ブランド価値には、公開済みの会計情報には含まれていない部分があり、CBバリュエーターは、少なくともある程度、その部分の定量的な把握に成功していることを示唆する。
- ブランド価値に価値関連性が認められたことは、ブランド価値のオンバランス化に対して一定の支持を与える。ただし、確立された評価モデルが存在しない現状では、拙速なオンバランス化は、却って投資家をミスリードしてしまう可能性がある。ブランド価値の情報開示に関しては、当面、参考情報として簿外注記事項への記載にとどめ、オンバランス化に関しては中長期的な検討課題とすることが適当である。