Business & Economic Review 2008年03月号
【STUDIES】
家計の有価証券の保有にみる地域格差
2008年02月25日 星貴子
要約
- 家計における有価証券の保有状況を自治体別にみると、地域間で大きな格差が生じている。都道府県間では、2004年時点で世帯当たりの金融資産に占める有価証券の割合に最大5倍の格差がある。東京圏・名古屋圏・大阪圏の3大都市圏のほか、広島県や香川県など地方圏でも有価証券の保有が多い自治体があるものの、こうした自治体は一部にすぎない。北海道、東北、九州を中心に全体の3分の2の自治体では有価証券を保有する世帯や保有額が少なく、そのなかには3大都市圏に隣接する自治体も含まれる。
一方、同一都道府県内をみると、都道府県庁所在地とそれ以外の地域の格差は2004年時点で平均2.6倍である。もっとも、数倍の格差がある自治体は一部にすぎず、半数の自治体では1.5倍前後であり、なかには群馬県や長崎県のように格差のない自治体もある。ただし、こうした自治体内にみられた格差の大小には、地域的な偏りはみられない。 - このような地域格差をもたらした主な要因としては、次の2点が考えられる。
第1は、資金力である。高額所得者や資産家などの富裕層は、他の階層に比べ余裕資金が多く、そうした資金力を背景により多くの有価証券を購入しているとみられる。実際に、世帯当たりの年収や貯蓄残高が多い、あるいは高額所得者や金融資産を多く保有する富裕層が多い自治体ほど、有価証券の保有が多い。
第2は、高齢者の人口比率である。一般に、高齢者は退職一時金などにより余裕資金を保有しているため、他の年齢階層に比べて有価証券を多く保有しているとみられている。しかしながら、本稿の分析では、高齢者、とりわけ70歳代の人口比率が高い自治体ほど、有価証券の保有が少ないとの結果となった。この理由としては、有価証券の保有を牽引している高齢者が3大都市圏を中心とした一部の高齢者にとどまっていることが考えられる。 - わが国では、資金に比較的余裕のある層が有価証券投資を牽引しており、そうした余裕資金を保有する世帯の多寡、いわゆる自治体における資金力の差が、有価証券投資における地域格差の主な要因といえる。もっとも、資金力の影響度は自治体によって一様ではない。
わが国では個人資金が有価証券投資に向かい始めたばかりであり、今後、その水準を欧米レベルにまで引き上げるためには、3大都市圏ばかりでなく地方圏を含めわが国全体の底上げを図ることが重要である。加えて、企業の資金調達や老後資金のための資産運用の有効な手段として有価証券投資の必要性が指摘され、有価証券投資の一層の拡大が求められている。こうした観点からも、3大都市圏を中心とした一部の資金力のある層ばかりでなく、地方圏においても有価証券投資の拡大を図ることが重要である。
こうしたことを踏まえると、わが国において「貯蓄から投資へ」の流れを一段と加速させるには、家計における有価証券の保有状況や資金力にみられる地域特性を踏まえた展開を進めていく必要があろう。