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Business & Economic Review 2008年02月号

【STUDIES】
サブプライム・ローンを巡る金融市場の動揺と監督当局、中央銀行の課題

2008年01月25日 調査部 理事 翁百合


要約

  1. 2007年に深刻化したサブプライム・ローンを巡る金融市場の動揺は、グローバル化、金融技術革新のもとでの証券化の進展といった、新しい金融環境における金融市場監督の在り方について、様々な課題を提起している。今回の危機の背景には、適合性原則を無視した貸し手の融資姿勢、金融機関や投資家のリスク管理不足といった、プレイヤーの古典的、初歩的な問題があったといえる。しかし、今回の危機の市場全体への展開は、1990年代に起こった危機とは様相を異にしていた。とくに、a.市場流動性の枯渇、b.国境を越えた広がり、c.新しいプレイヤーによるリスクテイクと銀行部門とのリスクのキャッチボール、d.危機の波及の予想しがたさ、e.危機の原因と危機の出現までには時間がかかるが、出現してからの波及の速さ、といった点に特徴があった。

  2. そうした点からみても、今後監督当局や中央銀行にとって、マクロ・プルーデンス政策の視点が一層重要になると考えられる。これは、a.銀行部門を特別視するのではなく、証券市場やデリバティブ市場の動向等にも目配りをする、b.マクロ経済の変化が金融システムに与える影響について目配りをする、c.個々の金融機関破綻のコストよりも、マクロ経済全体に対するコストの観点から対応する、といった観点に加えて、d.金融機関の行動がマクロ経済に与える影響や、金融機関の行動が他の金融機関に与える影響等によって、市場全体のリスクが高まり得る状況について十分注意を払う、といった、金融システムのなかにある「リスクの内生性」も十分に踏まえて監督政策上の対応を考える必要があることを意味する。

  3. 具体的に監督当局や中央銀行にとって必要な対応としては、次の9点があげられる。

    a.金融機関の自主的なリスク管理と情報開示の慫慂―金融イノベーションと親和的な金融システムを構築していくためには、インセンティブ・コンパティブルな規制を目指すことが重要である。

    b.マクロ経済とリンクしたマーケット全体の潜在的ストレス把握とこれに対するフォワード・ルッキングで集中的なモニタリング―経済の不均衡や潜在的なリスクの大きさを分析、把握したうえで、早い段階からこれに対する監督上の経営資源を投入して未然に危機を防ぐことが重要である。

    c.ストレス時におけるミクロのプレイヤーによるリスク管理や情報開示等が市場全体に与えるマイナスの影響の把握―経営の健全性を確保するためにとる個々の行動が、リスクポジションをより大きくとる方向に作用したり、「合成の誤謬」としてマーケット全体に負の影響を与える、市場規律がストレス時にはあまり効果を発揮できない、といった問題についての分析を深め、危機対応に生かす必要がある。

    e.マーケットや経済の状況に対して感応的な規制や監督上の工夫を行う―「リスクバッファー」(自己資本)を用意したり、「道路整備」(決済システム整備)を行うだけでなく、危機に至る前の「スピード制限」的な工夫を、規制や監督の考え方のなかに導入していく。

    f.実効的な業態横断的かつグローバルな監督体制の構築―金融コングロマリット全体としてのリスク管理をより慫慂していくと同時に、オフバランス化していながら、実態としてリスク遮断されていないような取引についての情報開示と監督を実効性のあるものとする。クロスボーダー化に伴う、危機時の国際的な当局間の連携を強める。とくに流動性を供給する中央銀行間の協調は極めて重要である。

    g.証券化商品の情報開示、リスク管理および標準化―リスクのトレーサビリティーを高めるための情報開示を奨励すると同時に、証券化商品のリスク管理や標準化を進めるための検討を進める。

    h.市場流動性の向上および効果的な「最後の貸し手」機能の発揮―平時においても証券化商品市場などにおける市場流動性を高める努力を行うと同時に、危機時において、流動性危機に陥った金融機関の健全性についての難しい判断を行う中央銀行は、従来以上にグローバルな連携をとりつつ、金融システムのモニタリングを厳格に実施する必要がある。

    i.中央銀行と監督当局の役割分担―危機時に適切な措置をとれるようにするためには、実効性のあるセーフティネットと破綻処理制度を整え、かつ、中央銀行が、危機時において、マクロ的のみならずミクロ的な個別銀行の問題についても、機動的な対応をとれる態勢を敷いておく。

    j.サブプライム・ローンの融資に対する監督強化―同一の機能を担う業態に対しては、できるだけ一元的な監督を行い、規制のアービトレージが働かないようにすると同時に、適合性の原則に沿った金融商品の販売を促し、金融教育や商品の情報開示を進めていくための環境整備を行う。
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