Business & Economic Review 2008年02月号
【STUDIES】
無形資産の会計情報と資本市場-研究開発投資情報に対する資本市場の評価を考える
2008年01月25日 新美一正
要約
- 近年、企業経営における無形資産(特許権、ソフトウェア、借地権、連結調整勘定など)の重要性が非常に高まっている。これら無形資産がもたらす将来キャッシュフローは大きな不確実性を伴っており、資産計上(資本化)のための共通ルールを定めることは困難である。したがって、これら無形経済価値に関しては、基本的に資産計上を認めず、価値内生化のための支出(研究開発費等)は発生時点で全額費用処理する、というのが現在の国際的な会計基準の考え方である。
- 企業経営を巡る昨今の環境変化は、こうした画一的な会計ルールの見直しを迫っており、研究開発費等についても貸借対照表への計上を認める方向に向け制度改革が動き出している。しかし無形資産のオンバランス化に際しては、それをどのように開示するか(開示モデルの開発)という問題に加え、それを開示した場合にどのような経済的影響が生じるか(経済効果)という二つの問題を解決しなければならない。これら二つの問題を解決するには、現実の無形資産が将来業績や市場評価(株価)とどのような関係性を持つかに関して、実証的な分析を積上げていく必要がある。
- 以上の問題意識に立って本稿では、代表的な無形資産の一つである研究開発投資を分析対象とした。具体的には、会計情報としての研究開発費がどのように資本市場から評価されているかを、株価との関連性を通じて、実証的に検討した。
- 輸送用機器42社の財務・株価データを利用した分析により、研究開発投資情報は限定的ながら外部投資家に有益な情報効果を持つことが確認された。この結果は、研究開発投資支出額のオンバランス化に対して一定のサポートを与えるものである。ただし、分析の副産物として、研究開発費そのものの認識は個別企業に任され、明文化された処理基準は存在しないことがわかった。研究開発投資支出額のオンバランス化に際しては、透明性の高い会計処理基準の設定に向けた議論もまた必要である。