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Business & Economic Review 2006年12月号

【STUDIES】
連結キャッシュフロー計算書情報と株価形成-食品業界20社のケース・スタディ

2006年11月25日 新美一正


要約

  1. 西暦2000年前後に、わが国では「会計ビッグバン」の名のもとに、集中的な会計制度改革が断行された。これに伴い、有価証券報告書における開示が従来の個別決算中心主義から脱し、連結決算を中心とする内容にシフトすると同時に、連結キャッシュフロー計算書が基本財務諸表の一つに位置付けられ、2000年3月決算以降、その開示が義務付けられた。前稿では、このキャッシュフロー計算書の情報内容に注目し、とりわけ企業価値評価における有用性の観点から定性的な実証分析を行った。本稿では、同一の問題意識に立って、前稿で積み残された課題である、キャッシュフロー情報と株価形成との関連性に関して、定量的な実証分析を行った。

  2. 投資家が株式投資に関する意思決定プロセスにおいて、入手した会計情報の有用性を認めるのは、その情報が企業価値の評価に役立つ場合に限られる。投資評価のための会計情報の有用性を厳密に分析するためには、株価と会計情報との間の相関を測るという単純な分析アプローチでは不十分であり、市場の効率性強度等を念頭に置いた精緻なリサーチ・デザインが必要となる。本稿では、近年の多くの先行研究が採用している、個別企業の株式投資収益率から市場平均投資収益率を控除して定義される、いわゆる異常投資収益率の累積値を被説明変数とする線形回帰モデルを採用し、分析を行った。分析対象は、前稿と同じく、食品業界20社であり、基本的な分析期間は2001年度から2004年度までの4年度とした。

  3. 本章における考察結果は以下の3点に集約できる。
    (1)当期純利益および営業キャッシュフロー情報は、決算公表前の株価形成と有意な正の相関を持っている。このことは、投資家が予想会計情報を種々のチャネルから入手し、投資行動を行うという一般的な行動仮説と整合的な結果である。
    (2)決算公表後の株価との関連性では、当期純利益との相関が有意性を失うのに対して、営業キャッシュフローは株価とおおむね有意に負の相関を持つことがわかった。やや、直観不整合的でもある、「営業キャッシュフローの伸びが大きいほど、決算発表後の株価は下落する」というファクト・ファインディングについては、アーニングス・マネジメントの存在を前提とした議論を行うことにより、合理的な説明を与えることができる。
    (3)投資・財務キャッシュフローは、決算発表以前・以降の株価形成と有意な関連性を有していない。ただし、この知見には、成熟産業である食品業界の特質が反映されている可能性が高い。

  4. 従来、投資家は決算発表で公表される過去期決算の内容に関してはその情報的有用性をほとんど認めず、決算短信に記載される経営者サイドの予想利益のみに関心を払ってきたように思われる。本稿の分析は、決算発表で初めて公表されるキャッシュフロー実績値に関する情報が、発表後の株価形成にも影響を及ぼすことを明らかにしており、その意味において、会計ビッグバンより開始されたキャッシュフロー情報の公開は、投資家に有用な新規情報を提供できていると、積極的に評価することができる。
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