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Business & Economic Review 2006年12月号

【REPORT】
アメリカ経常赤字の持続可能性

2006年11月25日 調査部 マクロ経済研究センター 主任研究員 牧田健


要約

  1. 本レポートでは、マネーフローの観点から、近年拡大している「世界的な経常収支不均衡」の背景を探り、アメリカ経常収支赤字がどの程度まで拡大可能かを検討する。同時に、その持続可能性について展望する。

  2. 1990年代後半以降、OECD加盟国においても経常収支の対名目GDP比率のバラツキが拡大するなど、世界的な経常収支不均衡が増大している。同時に、粗投資率と粗貯蓄率の関係をみると、80年代までは投資が貯蓄に制約される傾向があったが、近年はその関係が希薄化しており、国際資本移動の自由化が世界的な不均衡拡大に作用している可能性がある。すなわち、国際資本移動の自由化が、成長機会の豊富な国には海外貯蓄の活用(経常赤字は拡大)、成長機会に乏しい国には余剰貯蓄の海外での活用(経常黒字拡大)を容易にしており、結果として対外不均衡拡大に作用している。

  3. 以上を踏まえると、アメリカの経常赤字拡大は、アメリカが海外余剰貯蓄を惹きつけるだけの高成長を続けてきたことが背景にある。資本自由化の影響を踏まえて、アメリカ経常赤字の拡大可能な水準について検討すると、OECD加盟国のホームバイアス希薄化を受け、80年代において▲3%とされたアメリカの経常収支赤字・対名目GDP比率の許容限度は、足許▲5%強に拡大していると試算される。今後、OECD加盟国でのホームバイアス完全解消、OECD非加盟国での資本の自由化進展により、同許容限度はさらに拡大する可能性もある。

  4. もっとも、そうした水準での経常赤字が無条件で持続可能とは言い切れない。OECD各国の経常収支・対名目GDP比率をみると、投資収益率(実質GDP成長率/実質資本ストック)が高い国ほど経常収支赤字比率が高く、逆に、投資収益率の低い国ほど経常収支黒字比率が高いという傾向がある。したがって、アメリカへの高水準の資本流入が維持されるには、今後もアメリカが諸外国対比高い投資収益率を保持し続ける必要がある。しかしながら、足許のアメリカの成長パターンは、将来の収益率上昇につながる設備投資よりも、その時点で費消される過剰消費により、高い成長が実現されてきたのが実態で、今後の継続的な資本流入には不安を抱えている。

  5. アメリカへの資金流入は、設備投資対名目GDP比率と連動している。したがって、アメリカへの大量の資金流入が維持されるか否かは、高い投資収益率を維持しつつ、設備投資の増勢がどこまで持続可能かに依存している。アメリカの資本ストック循環をみると、期待成長率の上方シフトがない限り、2008年頃からは設備投資にストック調整圧力が強まり始める可能性がある。IT関連投資の増勢鈍化を受け、アメリカの労働生産性、潜在成長率の伸びが鈍化し始めるなか、過剰消費に牽引された成長から、IT関連など質の高い設備投資に牽引された成長パターンに転換し、潜在成長率の引き上げ、投資収益率の向上につなげることができるかどうかが、アメリカの経常赤字問題の行方を大きく左右しよう。
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