Business & Economic Review 2006年11月号
【REPORT】
関東・中部との比較から浮かび上がる関西経済復活の課題
2006年10月25日 吉本澄司
要約
- 関西では、今回の景気拡大局面において、かつての悲観的な雰囲気が払拭されつつある。その一方で、「経済の地盤沈下」に例えられてきた趨勢に明白な変化は表れていない。
- 日本経済の回復が輸出、設備投資に牽引され、企業部門の経済活動が活発化したことが、関西の景況改善に有利に働いている。ただし、関西の業況判断DIが全国を上回っている背景には、「地方」の不調によって関西がより良くみえているという面もある。
- 今回の景気拡大局面において、関西の鉱工業生産は全国に比べ遜色ない増勢を示しているが、中部の増加率は更に高く、全国のなかで群を抜いている。電子部品・デバイスの増加寄与度が顕著なのも中部である。
- 関東と関西では「バブル景気」崩壊後に製造品出荷額の減少が著しかったが、ここ数年で増加に転じ、とくに関西の2004年の出荷額は素材市場の活況という追い風にも助けられて高い伸び率となった。
ただし、関西の増勢が他地域を圧倒しているわけではない点に留意する必要がある。
- 関西は、一般機械、化学、電気機械、鉄鋼等の製造品出荷が上位を占めるが、その他にも多くの製造業が発展しているため、上位品目への集中度は低い。関西製造業の集積の特徴は多様性であるが、
製造業全体としての規模の拡大を強めることが課題となっている。
- 関西では、最近、工場立地が増加しており、大規模な工場の進出・稼働が話題を呼ぶ機会も増えてきた。ただし、中部をはじめいくつかの地域における工場立地の増勢は更に強い。長期的に生産増加を支える基礎となる生産能力の拡充に関しては、関西は中部に大きく水をあけられている。
- 関西は日本を代表する経済圏の一つであり、複数の大都市を地域内に有しているため、非製造業のうち物流関係や不動産取引、飲食店において、関東や中部と並んで集積が進んだ地域である。ただし、非製造業の中でも企業取引と密接な関係を持つ分野や特定の専門分野などにおいて圧倒的な集積を示している関東との差は大きい。
- 関西経済は、今回の景気拡大局面において「地方」を上回る改善を実現し、「地方」を含む全国平均と比較すれば優るとも劣らない景気の好転を示している。しかし、三大経済圏のなかで経済構造、産業構造に目を向ければ、製造業については中部、非製造業については関東の強さが目立つ。
- 関西は、引き続き経済基盤、産業基盤の拡充に取り組んでいく必要がある。関西以外にも幅広く立地を展開している関西企業に、関西に対する立地を増やしてもらえるように誘致策を強化することは身近な方策であり、関西の強みである企業単位での集積の大きさを生かす道であろう。