Business & Economic Review 2006年10月号
【STUDIES】
日本の所得格差-OECDの「対日経済審査報告」が示すもの
2006年09月25日 調査部 主席研究員 太田清
要約
- 本稿では、OECDの「対日経済審査報告」(2006年版)を検証するとともに、日本の所得格差について追加的な分析を行い、次のようなことを得た。
- 日本の所得格差の大きさ(水準)に関しては、OECDの報告は、日本は所得格差が大きいという、これまでの「通念」とは異なった結果を導いている。それは本当だろうかということを検討した結果、OECDの計測は日本の所得格差を先進国のなかで過大に計測(評価)しているとはいえなそうだという結論を得た。
- 格差が大きい原因は主に税等による再分配が小さいことにある。とくに、中所得層と低所得層の差が税等で縮小しないことは相対的貧困率が高いことの原因になっている。また、欧州諸国との比較では、家族政策に関わる措置が小さいことも日本で低所得者が多いことと関わっている。
- 所得格差の拡大(変化)に関しては、日本が先進国のなかで不平等な方であり、貧困率(相対的貧困率)が高いということについて、一体いつからそうなったのかをチェックした。その結果、比較的以前からそうだったのであり、最近格差が大きい方に順位を急激に上げたのではないであろうということがわかった。
- しかし、1990年代後半以降には格差が拡大した。この格差が拡大した原因は、再分配ではなく労働市場にある。労働年齢層の間で格差が拡大した。とくに政策的に問題となるのはフリーター化など非正規労働の増加である。
- 以上を踏まえ、次のような点を検討すべきという政策的なインプリケーションを得た。
第1は、若年層のフリーター化など非正規雇用等の問題への対応である。第2は、将来の消費税率引き上げ時等で格差問題(低所得者問題)に配慮する必要性である。第3に、所得税における税還付型税額控除の導入である。第4に家族関係給付・税控除の拡充である。第3、第4の問題は少子化対策とも接点がある。
なお、地域間格差の是正などを公共投資などで行うことは、OECDが指摘したような個人間の所得格差の問題に取り組むうえでは、効率的ではないと考えられる。