Business & Economic Review 2006年10月号
【STUDIES】
地方自治体向け金融ビジネスの展望
2006年09月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 研究員 一方井絢子
要約
- 地方自治体向け金融ビジネスが転機を迎えている。地方債の市場化が進められるなかで、地方自治体の財政力格差に焦点が当たっている。しかしながら、金融機関は、地元のレピュテーションや地域社会・経済への影響を踏まえれば、たとえ財政力格差に基づいて自治体の信用リスクが顕在化したとしても、自治体向け取引を一般企業のケースと同様に扱うことは困難であるというジレンマを抱えている。
- 地方自治体向け金融ビジネスの概要を整理するため、a.指定金融機関業務、b.地方債引受、c.制度融資、をみてみる。地方債引受では、地方債の市場化が進められる一方で、指定金融機関業務は、制度の発足以来見直しが進められておらず、金融機関の自治体向け取引はトータルでみると採算性の薄いビジネスとなっている。
- これまで地方自治体向け金融ビジネスに影響を与えてきた環境をみると、まず、地方財政制度においては、財投改革に伴い、公的資金の縮減・重点化が図られたことから、地方債の市場化が進められた。また、破綻法制の整備について、貸し手責任を問うことの是非を含めた検討が行われており、議論の方向性によっては地方自治体向け金融ビジネスに大きな影響を与える可能性がある。次に、自治体向けビジネスに影響を与えたものとして、金融技術革新をみてみると、クレジット・スコアリングによる中小企業金融の発達に伴い、制度融資の必要性が薄れている。
- このような環境変化に対して、金融機関の地方自治体向け取引を見直す機運が高まっている。まず、指定金融機関制度については、引き続き粘り強く改善を要望していくことが必要であろう。もっとも、地方自治法に基づく制度であることから、その改善には制度的な手当てが必要な場合が多いと予想される。このため、早急な事態改善を期待することは難しいと思われる。むしろ、今後の地方自治体取引で、当面大きな焦点となるのは地方債の引き受け業務である。
- 地方債の市場化の進展により、地方自治体間で信用リスクに格差が生じ、貸し手責任も問われるようになれば、地方債はリスク資産となることから、根本的な業務の見直しが必要となろう。もっとも、指定金融機関として地域経済のメインバンクであるような場合には、市場取引と同様なリスクとリターンだけによる割り切りは困難と思われる。取引を縮小・中止した場合、地域経済に与える影響や、地元でのレピュテーションを考慮すれば、マイナスの影響が大きいからである。したがって、地方自治体取引においては、一般企業とは異なる考慮が必要であろう。
- 地方自治体取引が一般企業とは異なる考慮が必要だとしても、その信用リスクのコントロールにはその分、特別の対応を考えておく必要があろう。まず、地方自治体の財政悪化を防止する方策が必要であり、金融機関としては、財務アドバイザリー業務の提供や、地方債への財務制限条項の導入が可能である。また、万一、地方自治体の信用リスクが顕現化した場合に備えてリスクをヘッジしておく必要があろう。具体的には、地方自治体向け与信ポートフォリオの交換や、クレジット・デフォルト・スワップの活用が考えられよう。