Business & Economic Review 2008年01月号
【REPORT】
変調強まるわが国輸入-数量減は景気後退の兆しか
2007年12月25日 藤井英彦
要約
- このところわが国輸入に従来看取されなかった動き。すなわち景気との連動性の低下。総需要が
堅調に増加するなか、輸入の増勢は趨勢的に鈍化。2007年入り後、減少へ。
これは何を意味するか。一般に輸入は、相対価格の変化の影響を除くと、内外需に連動して増減。こうした輸入の特質から推せば、現下の輸入変調は需要鈍化、さらに景気の調整局面が近いことを示唆する動きとの理解もあり得るが、どうみるべきか。本稿はこうした視点をベースに、輸入低迷の要因を整理し、今後のわが国経済への影響を展望。 - このところの輸入数量の減少は輸入全体に共通する現象ではない。資本財や建設財、いわゆる投資財を中心とする一部の動き。そのインパクトが大きく、全体の動向に投影。
投資財の輸入数量減少の原因は何か。こうした観点からみると、まず円安の進行が指摘。円相場は対米ドルでは近年、大きな変化はみられないものの、実質実効為替レートでみると2000年以降趨勢的に減価。さらに遡ると、現下はすでに歴史的な円安水準。1985年のプラザ合意や82年の世界同時不況、79年や74年の石油危機、1ドル=360円のブレトン・ウッズ体制がニクソン・ショックによって崩壊した72年とほぼ同水準。
しかし、減少した資本財では、輸入品価格が大きく低下し、国内品への価格競争力が増大。価格要因では輸入減少を説明不能。一方、増加した消費財では、逆に輸入品価格が大きく上昇して価格競争力が低下。こちらも価格要因による説明不能。 - 相対価格要因で説明が不能であれば、本来、需要の減退以外に解答はない筋合い。しかし、総需要は底堅く増加。投資財の減少を主導すべき設備投資も着実な増勢。これらを総合すれば、このところの輸入の変調、とりわけ資本財の低迷は、輸入品に対する需要が減少し、輸入品から国内品への代替が進行した結果との仮説成立の可能性。
そこで総供給に占める輸入数量のシェア、いわゆる輸入浸透度をみると、2007年に入り、増勢から一転して低下へ。生産財は若干の低下、資本財はとりわけ大幅に低下。
加えて、主な品目別にみると、増加品目はパソコンや衣料品、乗用車の消費財、および合板や鉄材の建設財で、低価格品と高価なブランド品が中心。一方、主な減少品目は半導体集積回路やカラーテレビ、コネクター。 - 以上を総合してみると、このところの輸入数量の減少は、景気悪化の兆候などでは全くない。むしろ、薄型テレビやDVDレコーダー、デジタルカメラや高級ゲーム機などの販売が内外で好調ななか、メイン・パーツのフラッシュ・メモリーやコネクター、それらを製造する工作機など、高付加価値の国内資本財や国内生産財へのニーズが増大し、輸入製品に依存する傾向が後退したという情勢変化が原動力。輸入の変調は、わが国経済・産業の高度化に伴って生産・供給体制が構造的変化を遂げつつある成果。さらに、輸入の減少は景気押上げにもプラスに作用。