Business & Economic Review 2006年09月号
【REPORT】
関西・地方圏における一次産業のパートナーシップ形成の課題
2006年08月25日 横田朝行
要約
- 関西では、京阪神大都市圏がわが国の三大都市圏の一つとして成長してきたが、京都府北部や兵庫県中・北部、和歌山県等は地方としての性格が強い。これらの関西・地方圏はすでに、人口の減少傾向が長期に続いている。人口減少を前提とした地域の自立のためには、産業振興が重要となってくる。
- 関西・地方圏の産業構造をみると、一次産業の割合が高いことが大きな特徴である。一次産業は、全体としては衰退傾向ではあるが、ブランド化や流通改革、新産品開発等の高付加価値化を図ることによって、地域の就業を創出しうる産業に育成していくことができる。こうした取り組みを支援して、一次産業の特色を生かした産業を形成することが必要である。
- 関西・地方圏は、a.京阪神大都市圏の大きなマーケットに近接し、消費者ニーズを把握しやすい、b.関西には学生や、これから定年を迎えるシニア層も多いため、これらの人々の力を活用することが可能である、c.食品や化学、機械等の製造業、大学や研究機関が多く立地しており、産学連携に取り組みやすい、d.関西には、これまでも京野菜や但馬牛など、全国に有名な地域ブランドが多くあり、ブランド化を通じた一次産業の活性化の可能性が高い、という強みがある。
- 一次産業は、多様な担い手の参入・連携を図り、ブランド化や消費者の安全への志向等に対応してマーケティング戦略を重視し、製造業等の人材や技術、ノウハウを一次産業と融合させ、新しいビジネスモデルの成功事例を創りあげていくことを考えていかなければならない。また、担い手の高齢化や後継者難に対して、事業の存続を図っていかなければならない。このため、生産者と大学・研究所、製造業・流通業、NPO等の新しいパートナーシップが必要となっており、各地でこれらとの連携の動きが始まっている。
- 各地の事例研究から、一次産業振興のためのパートナーシップ形成には、a.一次産業は、製造業と十分連携が取れていない、b.製造業の技術を一次産業に利用するために、技術開発すべきことは多い、c.NPO等によるコミュニティ・ビジネスの事業性の確立はこれからである、という課題が示された。
- 関西においては、一次産業の対応は消極的であり、a.製造業サイドからの参入を進め、b.公的研究機関による一次産業と他産業の間のコーディネートを進める必要がある。アグリバイオ分野等の産学連携は活発であるが、c.産業化に向けて一次産業関連だけでなく、工業関連の研究機関とも連携を図り、d.地域ブランド化に有効なトレーサビリティの確立のための研究開発を行うべきである。一次産業の割合の高い地域において、住民主体のコミュニティ・ビジネスを促進するために、e.NPO創出のための側面支援、f.行政から民間への事業の移転を促進する等の対応が必要である。