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Business & Economic Review 2006年08月号

【STUDIES】
連結キャッシュフロー計算書を利用した企業経営分析-食品業界20社のケース・スタディ

2006年07月25日 新美一正


要約

  1. 本稿では、2000年3月期決算以降、上場企業に開示が義務付けられるようになった連結キャッシュフロー計算書情報が、外部投資家による企業価値あるいは株主持分の価値の算定に役立つ情報となっているか、という基本的な問題意識に立って、食品業界20社の2000年度から2004年度までの5決算期の実際のキャッシュフロー計算書情報に基づくケース・スタディを行った。

  2. いわゆる、キャッシュフロー循環パターンでみると、対象19社中17社が、プラスの営業キャッシュフローを投資活動に振り向け、さらに生じた余剰資金を借入金の返済などに充当するという健全なパターンに属している。営業活動からプラスのキャッシュフローを挙げているが、それだけでは投資資金をまかなうことができず、積極的な資金調達を行っているケースは2社にとどまった。

  3. 次に、営業キャッシュフロー情報を、「当期純利益+減価償却費」で定義される会計キャッシュフローと比較検討した。その結果、営業キャッシュフローと会計キャッシュフローとの間にはかなりの格差が存在し、会計キャッシュフローを用いて企業の資金流出入状況を考察することは不適切であるという結果が得られた。また、営業キャッシュフローと会計キャッシュフローとの差額で定義されるキャッシュフロー・ギャップについては、19社中6社が負値となり、これらの企業については、本来、流入すべき現金が確保されていないことがわかった。利益の安定性ないし永続性を評価するうえで、キャッシュフロー情報の有用性は大きい。

  4. 営業キャッシュフローと投資キャッシュフローとの差額で定義されるフリー・キャッシュフローに関する分析からは、フリー・キャッシュフローが、将来的な利益予測に対し示唆的な情報を与えている点がおおむね確認できた。対象企業は、総体的には投資活動を減価償却費の枠内に納める抑制的な投資政策を執っており、それを上回る規模の固定資産投資を行う場合でも、多くは資産売却等を併用して、外部資金調達を極力、圧縮する傾向がある。こうした消極的な投資スタンスは、結果的に対象19社のうち18社に、対象5決算年度の累計ベースで、プラスのフリー・キャッシュフローをもたらしている。その使途を調べると、対象19社全体では、フリー・キャッシュフローのうち約4割が債務の圧縮に充当され、残る6割が半分ずつ、株主還元(配当・自己株式取得)と手元現金の積み増しに振り向けられていることがわかった。

  5. 一般的な資本収益性分析概念をキャッシュフロー・ベースに拡張したキャッシュフロー投下資本分析からは、キャッシュフロー創出力が、キャッシュフロー・マージンから強い影響を受けていること、キャッシュフロー創出力が、キャッシュフロー・ギャップやフリー・キャッシュフローとシステマティックな関係を持つこと、の2点がわかった。また、高いキャッシュフロー創出力は、当該企業に対する積極的な外国人投資を誘発している。

  6. 本稿の考察結果は、多くが会計理論的な帰結と整合的であり、先行研究の知見とも重複するところが多い。キャッシュフロー情報に基づく経営分析が投資家に有用な新情報を与え、また、その情報が実際の投資行動に影響をおよぼしていることについては、おおむね確認できたように思われる。
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