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RIM 環太平洋ビジネス情報 2005年07月号Vol.5 No.18

中国の金融改革と国内資金循環

2005年07月01日 調査部 環太平洋戦略研究センター 高安健一


要約

  1. 本稿の目的は、中国政府が金融改革を本格化させた1990年代後半以降に、国内の資金循環に生じた特徴および変化を明らかにすることである。

  2. 過去10年ほどの間に、金融改革に必要な健全性規制、金融監督体制、公的資金注入スキーム、資産管理会社などが一通り整備されてきたことは評価出来る。主要銀行の不良債権比率は低下傾向にあり、2005年3月末には12.4%となった。しかしながら、その分子を構成する不良債権額は増え続けている。金融改革は2003年末より新しい段階に入り、4大国有商業銀行の経営改革が進みつつあるが、国内外の株式上場スケジュールは大幅に遅れており出口戦略は不透明である。

  3. 97年から2003年までの資金循環統計によると、家計部門は、金融改革の進捗や金融機関の信用リスクに左右されることなく、一貫して貯蓄預金を積み上げてきた。これが金融機関を通じて非金融法人企業部門に大量に貸し出され、2003年以降の投資過熱の資金的裏付けとなった。家計部門の外貨預金は、アメリカとの金利差や人民元の切り上げ観測などに敏感に反応しており、国内で最も市場メカニズムを反映した動きを示している。資金調達面では、家計部門は90年代末より銀行借り入れを急速に増やしている。他方、資金不足が急拡大している非金融法人企業部門は、資金調達の銀行借り入れへの依存度を一段と高めた。

  4. 全金融機関の貸出金に占める4大国有商業銀行のシェアは53.6%に低下した。非政府系(その他)金融機関のシェアが着実に高まっており、この部分を含んだ包括的な金融改革の推進が必須である。

  5. 中国の金融改革で特徴的なのは、銀行貸し出し、銀行預金、預貸比率、不良債権比率、自己資本比率などの金融指標が整合的な動きをしていないことである。通常、金融システムに深刻な問題を抱えている国では、銀行貸し出しの減少、銀行預金の流出、不良債権比率の上昇、自己資本比率の低下などが観察される。しかしながら、中国の場合は、金融機関が多額の不良債権を抱え深刻な自己資本不足に陥っていても、銀行預金と銀行貸し出しは順調に伸びた。2003年以降の健全性規制の強化も、銀行貸し出しを抑制するものではなかった。政府が実質的に金融機関を保有していることから、その信認に関係なく預金が積み上がってきた。

  6. 中国では、金融システミック・リスクが、ヘッジファンドなどの投機的な動きではなく、むしろ国内要因によって引き起こされる可能性がある。市場メカニズムを反映した金融システムへ移行する過程において、名目GDP比で173%(2003年)に積み上がった預金がどのような動きを示すのかが注目される。最大の預金者である家計部門が預金を引き出して他の金融商品、外国金融機関、海外へシフトさせるのか、その動向を注視する必要がある。
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