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Business & Economic Review 2006年07月号

【STUDIES】
インターネット取引の隆盛と個人の株式投資行動変化

2006年06月25日 新美一正


要約

  1. 近年のわが国株式市場における著しい特徴は、個人の、とりわけインターネット取引を通じた投機 的資金流入の急増である。本稿では、ネット取引の急増が株式市場における株価変動にどのような変 化をもたらしているのかに関して、実態に即した分析を行った。

  2. 集計された取引行動データから判断すると、ネット経由で株式市場に流入する個人の投資行動は、 多分に短期的視野に基づく回転売買に支えられており、ストック・ベースでの株式資産残高の増加等 にはストレートに結び付いていない。また、ネット・トレーダーの実態に関するアンケート調査の結 果を見ると、平均的なネット・トレーダーは、既存証券会社の主力顧客とは対照的な個人属性を持っ ており、具体的には所得・金融資産の厚みに欠ける一方、非常に強い短期売買志向を持つことがわか った。

  3. 株価の変動に誘発される形で、個人を含む各投資主体がどのような投資行動を行い、またその結果 がどのように株価変動へフィードバックされているかを、時系列分析手法(インパルス応答分析、分 散分解)を用いて実証的に検討した。その結果、ネット取引が急成長を遂げた2001年以降、個人の株 式取引は、信用取引はもちろん、現金取引においてもより投機的な方向に傾斜しているという結果が 得られた。また、株価変動における個人(とりわけ信用取引)の比重も90年代までの期間に比較して 高まっていることがわかった。

  4. なぜ、インターネット取引の急増が株式市場の投機化を引き起こしているのだろうか。個人心理の 底流に存在していた投機志向が、規制緩和による取引コストの低下と、インターネット技術の進歩に よって、一挙に顕在化した可能性を指摘できる。また、行動ファイナンスの立場から、ネット取引そ のものの内部にも、個人の投機志向を誘発する、一種の自己増殖作用が存在することが明らかにされ ている。ネット経由で行われる個人の投機的株式売買は、今後も株式市場内部において一定のポーシ ョンを維持する可能性が高い。

  5. 個人の投機的株式取引を、規制や投資家教育によって完全に抑制することは困難である。むしろ、 それらの弊害を吸収し得るような、頑健な市場構造を構築することが今後の課題である。具体的には、 新たな安定的投資資金を株式市場に流入させ、投機の影響力を相対的に低下させるという方策が必要 である。過度にパッシヴ運用に傾斜した機関投資家の運用姿勢の是正に加え、ラップ口座や投資信託 の成長によって、長期的な個人の資産形成資金を株式市場へ誘導することが重要である。
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