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Business & Economic Review 2006年07月号

【STUDIES】
家計における投資信託保有の実態について-マイクロ・データによる政策シミュレーション分析

2006年06月25日 新美一正


要約

  1. 本稿は、前稿(新美[2006][6])の問題意識を引き継ぎ、個人投資家の投機的な株式取引の弊害 を吸収し得る頑健な株式市場構造の確立には、長期的な視野に立つ家計の資産形成資金の導入が不可 欠であるという立場から、その有力な受け皿として期待される投資信託(以下、投信)保有の実態に 関して、実証的な分析を行うことを目的とする。

  2. 最近における株式相場の上昇過程で、「貯蓄から投資へ」というキャッチ・フレーズがしばしばさ さやかれるようになっている。しかしながら、2000年以降に行われた投信に関する複数のアンケート 調査結果に関する考察からは、
    (1)投信を保有する家計、投信購入を希望する家計の比率は共に一桁台にとどまること、
    (2)過去に投信を保有したことがありながら、現在は保有していない家計の投信回避志向が著しいこ と、
    (3)投信の主要な購入層は、富裕な高齢者層に偏っており、職業別では、管理職・自由業などに加え、 無職層が一貫して高い投信保有比率を持つこと、
    の3点が明らかになった。一般的な家計における投信認知状況は決して芳しいものではないばかりか、 近年、むしろ悪化傾向にあるとさえ言える。

  3. 日経NEEDS-RADAR『金融行動調査』の個票データに基づく、家計の投信保有シェア(対金融資 産総額)に関するトービット・モデルの推定結果からは、以下の5点が明らかとなった。
    (1)所得が増加すると、リスク資産(ここでは投信)許容度が高まるという通常の経済理論整合的な 家計の投資行動が確認された。
    (2)住宅取得に伴う支出が年収に比して過大な場合に限り、リスク資産保有確率が有意に低下する (ただし、そのスケールは限界的)。
    (3)過大な教育費負担が家計の硬直化を通じて、リスク資産投資を阻害するという関係の存在が確認 された。
    (4)投信シェアと、家計の(持ち家としての)マンション保有との間に、正の相関が存在することが 確認された。
    (5)2000年調査を用いた推定では、世帯主の非就業が家計の投信シェアを引き上げる傾向があること が確認された。

  4. さらに、推定結果に基づく政策シミュレーションからは、
    (1)投信シェアの期待値は、恒常年収が増加するほどシェアが高まる逓増型であるが、恒常年収が低 水準にある場合、シェアの増加ペースは極めて緩慢であり、目立ったシェアの上昇は、恒常年収 1,500万円超の領域に限定される、
    (2)投信を全く保有しない世帯を含む全サンプルを対象としたケースと、投信を保有する世帯に限っ たケースとの間では、投信シェアの格差は断絶的に大きい、
    (3)恒常年収が2,000万円を超える投信保有家計では、投信シェア期待値は20%台後半から30%を超え る水準に達し、国際的な比較でも相当な高水準となる、
    の3点のファクト・ファインディングが得られた。

  5. 本稿の分析から浮かび上がる典型的な投信保有世帯像は、多額の恒常年収を持つ富裕層で、世帯主 は定年退職などの理由ですでに就業しておらず、分譲マンション居住で、住宅ローン・教育費の負担 がない、いわゆる悠々自適家計である。こうした富裕な退職者世帯の台頭に代表される、投信保有に おける近年の構造的な変化を、従来型の投信販売チャネルが十分に捉え切れなかったことが、投信の 認知・普及が遅々として進展しなかった背景にあると考えられる。1999年末の銀行窓販売解禁を契機 に、投信にこれまでとは異なる長期安定的な新規資金の流入が続いているのは、その一つの有力な状 況証拠であろう。
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