RIM 環太平洋ビジネス情報 2005年01月号Vol.5 No.16
中国都市部における消費パターンの変化
2005年01月01日 調査部 環太平洋研究センター 森美奈子
要約
- 中国都市部における家計の購買力は、1990年代半ば以降、経済成長を背景に急速に高まってきた。長く50%を上回る水準で高止まっていたエンゲル係数は、96年から下降トレンドに転じ、2003年には37.1%まで低下した。その一方、教育・教養娯楽費、交通・通信費、住居・光熱・水道費、保健医療費のシェアが上昇した。
- 消費パターン(消費支出の内訳)が変化した背景には、所得の増加に加えて、政策的な要因がある。市場経済化を目指した制度改革の進展により、家計にとって教育費、住居費、保健医療費の負担が増しており、自らの意思で消費パターンを決定出来る余地は限られている。
- 90年代後半以降、所得格差が拡大しており、所得階層による消費パターンの違いが大きくなっている。都市部の上位10%の高所得層においては、2003年にエンゲル係数が29.8%まで低下し、住宅、自動車、教養娯楽など生活を豊かにするための支出を拡大するとともに、将来の支出に備えて十分な貯蓄を行っている。他方、下位10%の低所得層は、所得がほとんど増加しないなか、制度変更や物価上昇によって光熱・水道費、教育費、保健医療費などの負担が増えているため、食料費を切り詰めてこれらの費用を捻出している。所得のほとんどは消費に回され、貯蓄をする余裕はない。
- 2003年における中国都市部の所得やエンゲル係数は、わが国の高度経済成長期(60~70年代初頭)の水準に近い。都市世帯の消費パターンを展望すると、政策的な要因などにより住居費や保健医療費が高止まる可能性があるものの、わが国と同様に、所得の増加とともにエンゲル係数、被服・履物費、家具・家事用品費のシェアが低下し、教育・教養娯楽費や交通・通信費のシェアが上昇することが見込まれる。
- わが国の経験との相違点としては、a.高い貯蓄志向が消費を抑制する可能性があること、b.所得格差の拡大により階層間の消費パターンの相違がさらに大きくなることが指摘出来る。わが国では、60年代に低所得層の所得が大きく伸びて所得格差が縮小したことにより、消費志向が比較的均質な大衆消費社会が実現した。しかし中国では所得格差は拡大の一途をたどっている。今後、高所得層においては、所得の増加とともに住宅、自動車、教養娯楽サービスなどへの支出が本格化することが予想される。他方、低所得層は、特定費目の負担が家計を圧迫する状況が続く可能性が高い。貯蓄率が低く金融資産の積み増しがほとんど出来ていないため、将来の消費格差がさらに拡大することも懸念される。
- 中国の消費市場を展望するに際しては、各階層の所得水準や消費パターンの特徴を十分に認識する必要がある。都市の上位10%層に限っても5,200万人が含まれるという巨大な市場の成長性は高い。その一方で、現在中国では持続的な経済発展のために消費を経済の牽引役にすえることが政策課題となっており、国全体としての所得の底上げが不可欠である。所得再配分や地方振興政策により、都市部の低所得層や農村部の所得を引き上げるための制度改革を早急に実施する必要がある。