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Business & Economic Review 2005年12月号

【STUDIES】
アーニングス・マネジメントとは何か-経営者による会計情報の裁量余地について

2005年11月25日 新美一正


要約
  1. 会計制度上認められている範囲内で、経営者が機会主義的に会計数値を調整する行動をアーニングス・マネジメントと呼ぶ。アーニングス・マネジメントは会計情報の連続性や透明性を低下させ、「利益の質」を低下させる。半面、経営者による利益・費用の期間配分は、日常の企業経営において普遍的な現象であり、その完全な排除は非現実的である。本稿では、経営者の機会主義的な裁量を排しつつ、現実の企業経営と会計情報の質とをどのように両立させていくべきか、という問題意識に基づき、アーニングス・マネジメントの内容を、とくに契約論的会計アプローチの視点から、可能な限りその実態に即して明らかにすることを目的とする。

  2. 一般に、アーニングス・マネジメントに対する認識・評価は、会計実務家・監督機関と会計アカデミクスとでかなり異なっている。前者にはアーニングス・マネジメントを“不正会計”の類似行為と見なす傾向があり、画一的な会計基準の設定による抑制・排除型の対応を支持する。一方、会計アカデミクスは、経営者の予測や見積りをアクルーアルズ会計の本質と捉え、収益・費用の期間マッチングや利益の平準化という側面を高く評価し、一律・画一的なアーニングス・マネジメントの排除は、会計利用者にとって決して好ましい成果をもたらさないことを強調する。

  3. アーニングス・マネジメントは不正会計ではないが、現実のアーニングス・マネジメントにおいて、不正会計との判別が難しい、いわばグレー・ゾーンに当たるような会計処理が散見されるのも事実である。その意味において、今後の会計基準の改定プロセスにおいて、ある程度、経営者の裁量余地が減じられるような方向性が打ち出されることは自然な方向性である。

  4. しかし、画一的な会計基準を設定しても、アーニングス・マネジメントを根絶することは不可能である。また、経営者による利益・費用の期間マッチングは、企業会計における利益概念の本質でもあり、それを完全に排除することは非現実的であるだけではなく、企業経営プロセスそのものに対する圧迫要因となる可能性もある。

  5. 以上の議論を踏まえ、アーニングス・マネジメントを適切な方向性にコントロールし、適切な財務 報告を確保するためのポイントとして、以下の4点を強調しておきたい。
    (1)会計情報提供サイドである経営者の高い倫理性。
    (2)適切な会計基準の設定。
    (3)監査人・公認会計士によるモニタリング。
    (4)会計情報利用サイドにあるアナリストなどの証券市場からの適切なレスポンス。
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