Business & Economic Review 2006年06月号
【STUDIES】
少子化対策は抜本的見直しを-強力な政策パッケージの確立を-
2006年05月25日 藤井英彦
要約
- わが国出生率は、先進各国中、最低水準まで低下。そのうえ、歯止めが掛かる兆しなし。それに対して、アメリカでは、合計特殊出生率が1998年以降、趨勢的に上昇し、2004年には人口を維持できる水準(人口置換水準:2.07)とほぼ同水準の2.05へ。一方、フランスでも、94年以降、趨勢的に上昇し、2005年には1.94へ。
- アメリカの出生率上昇は、人種別にみると、ヒスパニック系の出生率上昇が最大の原動力。さらに母の年齢別出生率をみると、ヒスパニックを除く白人系では、わが国とほぼ相似するのに対して、ヒスパニック系およびヒスパニックを除く黒人系では、20~24歳が出生率のピーク。20歳代前半期での高出生率の背景には非嫡出子の多さ。
- 一方、フランスでは、近年の出生率上昇は母30歳以上の層が主因。手厚い家族手当や行き届いた育児サポート制度が貢献。もっとも、わが国と対比してみると、a.30~34歳と並んで、25~29歳での出生率が高く、b.20~24歳の出生率もわが国を大きく上回ることが特徴。この点に着目すると、法律婚に拘らない事実婚が浸透し、出生数のほぼ半数を占めるまで非嫡出子が増大したという情勢変化が指摘可 能。
- 近年、先進各国での出生率の下げ止まり、あるいは反転上昇の背景について、女性の社会進出を重視する有力な見解。しかし、一人当たりGDPが3万ドル超の国に限定してみると、少なくとも2003年時点で、女性の労働力率と合計特殊出生率との関係に相関性は希薄。むしろ、各国出生率のピークが総じて20歳代であり、高出生率の国では20歳代前半の貢献が大きいという2点を踏まえてみると、非嫡出子のウエートと合計特殊出生率との関係がより強い可能性。
- 翻ってわが国をみると、出生率の低下は、母の年齢別にみて、20~24歳および25~29歳での出生率低下が主因。わが国の非嫡出子ウエートは国際的に際立って低水準であるため出生数から非嫡出子を除外せず、母の年齢別出生数を、年齢別婚姻女性数で割ると、婚姻女性一人当たりでみた母の年齢別出生数の近似が可能。これによると、総じてわが国の場合、婚姻女性の年齢別にみた出生率は長期にわたり安定的。少子化は非婚化・晩婚化が主因との判断が可能。
- 非嫡出子の問題は各国固有の社会規範に根差す部分が大きく、慎重な論議が必要。もっとも、多民族国家のアメリカを除くと、西欧各国とわが国の間には、出産・育児を個人の問題とするか、社会全体で支える問題と位置付けるかという点で根本的違い。非嫡出子の差異が象徴的。さらに踏み込んでみると、底流には、社会や政府が果たすべき役割についての考え方が異なる。西欧、とりわけ北欧各国では、産業化やグローバル化に伴う雇用・社会の流動化、女性就労の拡大と高度化は必然的潮流と受け止め、次世代形成に対する社会や政府の役割を見直し。一方、わが国では近年、雇用の流動化や女性就労が進行するなか、格差が拡大。
- このようにみると、わが国出生率上昇のポイントは、とりわけ、次の3点。
- a.就業支援の強化
- グローバル化の進展が一段と本格化するなか、欧州先進各国は、90年代半ば以降、就業支援を軸とする積極的雇用政策を総じて強力に推進。それに対して、わが国では、失業給付をはじめとする消極的雇用対策が中心。わが国の雇用対策関連の政府支出規模はGDP比でみてECD主要各国中、最小グループ。そうしたなか、所得格差問題が深刻化へ。
- b.子育て・教育負担の軽減
- 就業支援を梃子に婚姻件数の増加を図る次のステップとして、婚姻者の出生率引き上げが目標。わが国の場合、持ちたいと考える子供の数は予定する子供の数を上回っており、その最大の障害が子育て・教育コストの重さ。こうした観点からOECD先進各国と対比してみると、教育関連分野に対する政府支出は、GDP比でみて、各国のなかで最小規模。
- c.国内コストの適正化
- 子育てや教育関連のコスト負担の軽減には、政府支出の増加以外に、国内物価の引き下げを通じた家計の実質購買力増大によっても解決可能。そうした観点からわが国内外価格差を点検すると、今日でも高コスト体質は是正されず。とりわけ、公共工事に象徴される政府部門では是正が遅延。PFIや今後導入が見込まれる市場化テストを駆使した行革断行は、国内コスト適正化のためにも焦眉の急。