コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

RIM 環太平洋ビジネス情報 2006年05月号Vol.6 No.21

地域間格差の是正と『東北振興』

2006年05月01日 向山英彦


要約

中国は沿海部を中心に急速な経済発展を遂げる一方、地域間の経済格差が拡大する傾向にある。格差の拡大は主として沿海部と内陸部との間でみられ、沿海部では域内格差が縮小してきたばかりではなく、都市・農村間格差は内陸部より小さくなっている。沿海部ではグローバル経済との統合が強まるなかで、工業化と都市化が進み、農村から都市への出稼ぎと農村での生産性上昇が生じたためである。

沿海部と内陸部との格差の拡大は失業問題とともに、政治・社会の安定を脅かす要因となっているため、中国政府は格差の是正に乗り出した。「西部大開発」に続き、2002年10月の共産党第16期中央委員会第3回全体会議において「東北振興」、2005年3月の全人代では、中部地域の開発を目標とする「中部崛起」が提唱された。2006年3月に開催された全人代で採択された「第11次5カ年規画(計画)」のなかでも、「地域間のバランスのとれた発展」が主要課題の一つとされた。

東北地域では旧満州時代の工業基盤を引き継いだ上、旧ソ連の援助を受けながら大型企業が相次いで建設されるなど、初期条件に恵まれて工業化が進展したものの、重工業中心の産業構造がその後の発展の阻害要因となった。東北地域の域内総生産が全国に占めるシェアは80年の13.5%から2004年には9.0%へ低下した。

経済の再生のためにまず求められることは、重工業中心の産業構造からの脱却である。失業率が高いことを考えると、雇用吸収力の高いサービス産業や軽工業の育成が重要となる。都市が拡大すれば、農民の収入機会が増加するだけではなく、多様なサービス産業の成長が期待出来る。こうした産業構造の高度化は、国有企業の改革と不可分であるため、国有企業の改革を加速することが必要である。この点では、グローバル経済とのリンケージの強化は産業構造の高度化と国有企業の改革に弾みをつけるだろう。

東北地域には日本企業や韓国企業が多数進出し、貿易面でも日本や韓国との結びつきが強く、遼寧省の大連市には基盤技術が一定程度集積している。これらは、この地域の潜在成長力の高さを示すものである。さらに中国の「東北振興」が進めば、これまで議論の域を超えなかった「北東アジア経済圏」が現実味を帯びるものと思われる。

日本政府にはこうした長期の展望の下に、中国の東北地域そして東北アジアを位置づけ、対中関係を再構築していくことが求められる。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ