RIM 環太平洋ビジネス情報 2006年05月号Vol.6 No.21
中国の少子高齢化と社会保障-人口動態からみた中国の経済発展の課題
2006年05月01日 調査部 環太平洋戦略研究センター 大泉啓一郎
中国において少子高齢化が進展している。合計特殊出生率はすでに1.7に低下しており、出生率がこの水準で推移すると、中国は日本とほぼ同様の速度で高齢社会へ移行することになる。この出生率の低下は、当面は経済成長を促進させる要因(人口ボーナス)となるが、その後押し下げる要因(人口高齢化)に転じると考えられる。
中国は、一人っ子政策を採用し、人口面での経済成長の阻害要因を取り除き、豊富な労働力、高い貯蓄率と改革・開放政策が相まって、高成長を実現することが出来た。この点では、中国は出生率低下に伴う人口ボーナスの効果を活用出来たといえる。しかし、人口構成上、中国の人口ボーナスは2010~2015年に終了する見込みであり、所得が十分に高まらないうちに、人口ボーナスを終える可能性が高い。持続的な経済発展を維持するためには、人口ボーナスの実質的効果を伸ばすような政策が必要となる。
他方、2005年の高齢化率は7.6%とまだ低水準にあるため、高齢者の負担が経済を押し下げる要因になることは当面考えにくいものの、労働人口の高齢化が進む過程で、生産性が低下することが危惧される。ベビーブーマ世代を含む多くの中高年層は、改革・開放政策の過程で工業部門に十分に吸収されず、農業部門にとどまったままである。これら中高年層は、初等教育しか受けていない場合が多く、伝統的な農作業では加齢とともに労働生産性が低下せざるをえないと考えられるからである。政府は、生産性を高めるために高等教育の充実を目標に掲げているが、構成比の高い中高年層の生産性改善策を急がないと、国家レベルでの労働生産性が高まらず、さらに地域間所得格差を拡大させ、また新しい所得格差(年齢所得格差)を引き起こす要因になる可能性がある。
現在、中国では、地域間所得格差是正の手段として、全国民を対象とする社会保障制度構築に向けた議論が活発化している。しかし、人口構成の変化を勘案せずに、所得再分配を強調した社会保障制度を構築すると、今後高齢化が進むなかで財政負担が急速に高まる可能性がある。それは、単に経済成長の押し下げ要因となるだけでなく、税率や企業内福祉費の引き上げなど、企業の活動を阻害する要因となろう。