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RIM 環太平洋ビジネス情報 2006年05月号Vol.6 No.21

中国現体制の課題と日中関係の将来

2006年05月01日 拓殖大学学長 渡辺利夫


要旨

超高成長をつづける中国も、これを内部から眺めれば困難な問題を多く抱えもっていることがわかる。最大のテーマはきわめて強い労働供給圧力であり、実はこれに抗するために超高成長を持続するより他に選択肢はないというのが現在の中国を論じる場合の最重要なポイントである。

国有企業の整理統合や民有化の過程で排出される失業者群に、農村から移出してくる「民工」とよばれる流動人口が加わる。流動人口の流出地域は中部の貧困層であり、流入地域は沿海部の発展省市である。超高成長を維持し彼らにいかにして就業の場を提供できるか。就業の道が閉ざされれば失業者の中に鬱積する社会的不満が「暴発」する危険性がある。都市住民の不満の「臨界点」がやってくるのもそう遠いことではないのかも知れない。

選択肢は超高成長を持続して労働需要を恒常的に確保すること以外にはありえない。第16回共産党大会で採択された「翻両番」(所得4倍増計画)とは、2000年の国内総生産額を2020年に4倍にしようという政治目標であり、目指されている実質経済成長率は7.2%である。これを下回れば社会的不安を誘い出し、一党独裁の根幹を揺るがしかねないという政治的「閾値」、これが7.2%の本当の意味である。試算によれば、7.2%の成長率を20年間持続したとしても、中国の都市と農村を合わせた失業者総数は1年たりとも2億人を下回ることはない。7.2%は現在の中国が政治的に許容可能な最下限だというべきであろう。

日中関係悪化の最大の要因は政権中枢部が採用している反日政策にあるが、政権中枢部が反日政策を採用せざるをえないのは、高まる国内の社会的不満の「矢」をみずからではなく、日本の方に向けさせようという意図に発している。日中関係悪化の根因は、中国の国内の深層部に厖大な規模で伏在する社会的不満層の存在である。そうであれば日中関係の好転を期待することは難しく、ましてや中国の主導する「東アジア共同体」において日中が席を同じくすることは不可能であることを知らねばなるまい。
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