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RIM 環太平洋ビジネス情報 2006年01月号Vol.6 No.20

通貨危機は韓国の家計をどう変えたか

2006年01月01日 向山英彦


要約

  1. 韓国では民間消費が2003年、2004年に、2年連続で前年比マイナスとなった。この背景には、所得・雇用など家計を取り巻く環境の悪化がある。

  2. 家計部門の実質可処分所得は1998年に大幅に減少した後、回復に転じたものの、低い伸びが続いている。他方、民間消費は99年から2002年にかけて急回復した。これは消費者信用の利用と貯蓄の取り崩しによるものであり、持続不可能であった。信用不良者の増加を契機に導入された消費者信用抑制策により、消費が急激に冷え込むとともに家計のバランスシートが悪化し、消費の低迷につながった。

  3. 雇用面をみると、通貨危機後は比較的短期間のうちに失業率が改善したが、近年では3%台半ばで推移している。雇用回復力が鈍くなっていることに加えて、臨時や日雇いなどの非正規労働者が増加するなど、雇用の質が悪化した。

  4. 所得・雇用環境に関連して、問題になっているのが所得格差の拡大である。所得5分位別の分布をみると、97年から99年の間に、最低所得階級である第1分位から第3分位までの構成比が低下する一方、第4分位と第5分位の構成比が上昇した。

  5. 所得格差の拡大傾向はその後収まったが、第1分位の構成比の低下に歯止めがかかっていない。『家計調査年報』によると、所得10分位別の第1分位(最下位10%)は経常収入の減少分を、「資産の減少」と「債務の増加」によってカバーしたことが確認された。

  6. 他方、第1分位の支出面より明らかになったのは、a.被服・履物、家具・家事用品などへの支出が切り詰められたものの、交通・通信や光熱・水道などへの支出が増加したため、消費支出を十分に削減できなかった、b.消費支出以外の公的年金や社会保険料の負担が増大し、支出全体の削減を困難にした、c.消費支出が経常収入を上回る状態が続き、債務返済額の対経常収入比率が2004年に過去最高となったことである。

  7. 近年、韓国社会を揺るがした信用不良者問題の背景に、こうした低所得階級における家計のバランスシートの悪化がある。低所得階級が構造改革のしわ寄せを最も受けたといえる。

  8. 所得の緩やかな伸びと家計の債務調整の進展、一連の景気対策などにより、民間消費は2004年後半以降回復基調にあるが、本格的回復には至っていない。その一因に、低所得者階級における家計のバランスシートの改善の遅れがある。
    したがって、消費が本格的に回復するためには低所得階級の収入の引き上げが必要であり、それには経済成長率を高めて雇用を創出するとともに、増加する非正規労働への対策が求められる。
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